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第24話

 胸が痛い。苦しい。  押し潰されそう。  なのに、どうして……  声が出ないのだろう。言葉が冷めていく。喉を切り裂いてでも出したい言葉が、冷えて凍えて崩れていく。  この人には本能がない。  生きる。  生きたい。  人が生まれながらに持つ情動を削り取られてしまったかのようだ。 「なぜ、首を振るのですか。ヴァイスリッター」 「分かりません」  あなたの悲しみを取り戻したい。  けれど、もしも取り戻せたなら、もっと悲しくなるのではないだろうか。  もっと苦しめるのではないだろうか。  それでも、今のこの状況を否定したい。  生きる事を否定しないでほしい。  思っているのに何もできない。  何もできない。  何かしたい。  やっぱり何もできない。  …………俺も諦めるのだろうか。  あと数分、もしかするとあと数秒の命を。  ここで諦める? 「ヴァイスリッターはおかしな御方ですね。まるで整合性がとれない」 「あなたの名前を教えて下さい」 「整合性のない質問ですね。私は消耗品です。消耗品に名前はありません」 「じゃあ、刑務官さん。もしも今……銃口を構えられたこの状況で、俺が生き延びる事ができたら…… あなたも生きる意味、諦めないで探してくれますか」 「ますます整合性がとれません。理解できませんが、ヴァイスリッターの命令には従います」 「約束ですよ、刑務官さん」  怖いよ、俺だって……  本当は足が震えるほど。  数分後、うぅん。数秒後に銃口が火を噴いて俺は倒れているかもしれない。  撃たれたらきっと、ものすごく痛いんだろうな。  大臣達を逃した兵士は直属だ。七賢者と濃く繋がっている。ヴァイスリッターの命令は聞かないだろう。  俺は無力だ。  でも……  俺を信じてくれる人がいる。  だから、俺も信じなくちゃ。  ねぇ……  クレイ。

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