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第116話
「今年の初詣は一生どうすんのかな。一生何かそのことについて言ってたか?」
大輝が旭葵に尋ねる。
「いや、そういうことについては別に何も」
そこへちょうど一生から湊に電話がかかってきた。
「一生、いいところに電話くれたよ。今、大輝たちとみんなで初詣の話してたんだけど、一生今年はどうする? 俺たちと行く? それとも彼女と? あとみんなで行くって手もあるけど……、うん、いいよ」
湊は旭葵たちに向かって「今、彼女に聞いてみるって」と、早口に伝えた。
みんなで行くことになったら嫌だな。
旭葵は密かにそう思った。
トマト鍋を食べた時のような2人を目の前で見るのはもう嫌だ。
もしみんなで行くことになったら、何かいい言い訳を考えて行くの止めようかな。
そんなことを考え、自分は心が狭いなと落ちる。
この先、ずっとそうやって一生と激カワちゃんを避け続けるのか? 2人が別れても、一生はその後に他の女の子と付き合うだろう。
将来結婚だってする。それを見るのが嫌なんて言っていたら、これから先、一生と一緒にいることなんてできない。
それはつまり、一生の友人をやめるということだ。それが嫌なら、一生の恋愛を祝福してやれるようにならないと。
でも……。
飲み物の入ったコップを持つ手に力が入る。
どっちも嫌だ。
一生の返事待ちで、しばらく口を閉ざしていた湊の声で旭葵は弾かれる。
「え? そっか、うん、分かった。あ、いいよ全然気にしなくて。今までずっと一緒だったんだからさ、じゃあな」
湊は電話を切るとスマホをしまった。
「初詣は彼女と行くって」
ほっとして、0.5 秒遅れて胸の内側が濁る。
「それで旭葵、一生がさっきから旭葵に連絡してたらしいんだけど」
見ると旭葵のスマホはバッテリー切れになっていた。
「忘れてったマフラー、今年中に取りに行きたいって」
今朝、一生が帰った後、旭葵は台所にキャメル色のマフラーが落ちているのを見つけた。
すぐに一生を追いかけたが、一生の姿はもう道にはなかった。家に戻って電話をしたが通話中だったので、マフラーを忘れたことを告げる短いメッセージを送っておいた。
手の平に、今朝のマフラーの感触がまだ残っているようで旭葵はシャツで手を拭った。
肌触りのいいマフラーが旭葵の心にチクチクした。
湊たちと別れて家に帰ると、旭葵はすぐにマフラーを持って一生の家に行った。一生のお母さんが仕事でいないのは朝、病院で会ったから知っていた。
家中に人の気配があるような気もしたし、ないような気もした。
2階の一生の部屋の窓を見上げる。が、すぐに玄関のノブにマフラーを入れた紙袋をかけると、旭葵はその場を足速に立ち去った。
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