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第117話

 関西では1月15日まで門松を飾るのだと隼人に教えてくれたのは誰だったろう。  1月10日の今日、店の入り口にはまだ立派な門松が飾られていた。ここは関西ではないが、店の人が関西出身なのか、ただ単に片づけが遅くなっているだけなのか。  そんなことを考えていると隼人の順番になった。本当はまたポテトとハンバーガーを食べたかったが、そんな雰囲気じゃないな、と隼人はコーラだけを注文すると、後ろを振り返った。 「何にする?」 「あ、私は私で注文しますから、お気遣いなく。私から誘ったので本来なら私が支払いをしてもいいくらいなのにすみません」 「可愛い女の子に奢ってもらうことなんかできないよ」  可愛いなんていえいえ、と激カワちゃんは縮じこまる。  隼人はコーラの乗ったトレイを持って、ぐるりと店内を見回す。  クリスマスに旭葵たちと来た時に座った席は同じ学校の生徒たちが陣取っていた。他にもチラホラと同校の生徒が目についたので、一番人目につかない隅っこの席に隼人は腰を下ろした。  今日の放課後、隼人は激カワちゃんに待ち伏せされた。  そして今に至る。  激カワちゃんを近くで見たのも、話をしたのも今日が初めてだ。  さっきのレジでの受け答えといい、男にちやほやされて自分を必要以上に過大評価している女の子かと思っていたが、案外普通の感覚の持ち主のようだ。  メロンソーダにストローをさす激カワちゃんに隼人は尋ねる。 「俺と2人でこんなふうにしてて大丈夫なの? この店、同じ学校の生徒もいるしヤバいんじゃない?」  もともと一生と激カワちゃんは校内で騒がれる存在だっただけに、2人の公開恋人宣言は学校中に広く知れ渡っていた。 「桐島先輩はそんなこと気にしません」  同じセリフでも、もし激カワちゃんが真から笑ってそう言ったのだったら、この言葉は本人達だけに分かる固い絆が言わせた言葉だと思えただろう。  けれど激カワちゃんの笑顔はもはや笑顔とは呼べない代物だった。  歌舞伎町で育ったせいか、隼人は報われない恋に打ちひしがれる男女を今までたくさん見てきた。  好きな相手の恋愛対象から自分が完全に締め出されるのは結構キツイ。それも永久に。一縷の望みもない片思いの絶望感は経験したものでなければ分からないだろう。  そんな彼らと、激カワちゃんは同じ顔をしていた。  ああ、そうだ。アレを教えてくれたのは、彼氏のいる女友達を好きになってしまった女の子だったな、と、隼人は店の前の門松を思い出した。

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