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第118話
「で、俺に聞きたいことって何?」
激カワちゃんは肩を緊張させた。
「桐島先輩のことなんですけど」
目の前のメロンソーダに恐る恐る話しかけるような小声だった。
激カワちゃんに告白されるなんてこれっぽっちも期待していなかったが、まさか〇〇君にラブレター渡してください的な役割を、この自分が振られる日が来ようとは予想外過ぎて、思わず変な笑い声が漏れてしまった。
すぐに真面目な仮面を被り直したが激カワちゃんは自分のことに一生懸命で隼人のそんな妙なリアクションには全く気づいてないようだった。
「あのっ」
先ほどの小声とは打って変わって、意気込みすぎた声は裏返っていた。見ているこちらが可哀想になるくらい激カワちゃんは切羽詰まっていた。
「桐島先輩はそのっ、彼女とは結婚するまでそのっ、あのっ、なんかポリシーというか、そういうのがあるんでしょうかっ」
激カワちゃんはメロンソーダを掴むとものすごい勢いでストローを吸った。緑色の液体が小さな口にどんどん吸い込まれていき、ズズッとカップの底が鳴った。
隼人は激カワちゃんの問いを後回しにし、思わずその様子に注目してしまう。
メロンソーダを一気飲みした激カワちゃんが必死の形相で隼人の解答を待っているのを見て、改めて激カワちゃんの言ったセリフを脳内でリピートする。
彼女とは結婚するまで/ポリシー
この2つが重要な単語で、この2つから連想される事柄。
彼女とは結婚するまでデートでニンニクの入った料理は食べない。
彼女とは結婚するまで2人だけの恥ずかしいあだ名で呼び合わない。
彼女とは結婚するまで一緒にいる時、オナラはしない。
んなわけあるか。
激カワちゃんの挙動と話の流れ、それに一般論を加えると答えは1つだった。
彼女とは結婚するまでエッチなことはしない。
激カワちゃんと一生が付き合いだして約4ヶ月。微妙な長さだ。それほど気にすることではないと思うが、こういう一見、純情な感じに見える子に限って積極的だったりする。
そこまで思って、さっきの激カワちゃんの痛々しい笑顔が思い出された。
激カワちゃんは焦っているのかも知れない。
「もっと自分を大事にした方がいいよ。まだ付き合って日も浅いんだから」
おっさんみたいな愉し方になってしまったが、一生しか眼中にない女の子の前で気取ったところで仕方がない。
激カワちゃんはきれいにカールされた睫毛をしばたたき、直後ぶわっと顔を赤く膨らませた。
「ち、違います、いえっ、違わないんですけど、そっちじゃなくて、いえっ、いずれはそっちもなんですけど、まだまだそっちの前の段階というか、あのすみませんっ、聞き方が悪くて、私、あのっ」
そのまま弾けてしまいそうだった。
「まあまあまあ、落ち着いて、ごめん悪かったよ、そっちの意味じゃなかったんだね、ゆっくりでいいから」
激カワちゃんは、まるでぷしゅ〜と音を立てるかのように萎み、蚊の鳴くような声を出した。
「先輩はまだキスもしてくれないんです」
ぽろんと激カワちゃんの口からこぼれた告白がテーブルに落ちる。
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