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第119話

 確か一生はクリスマスも初詣も激カワちゃんと一緒だったはずだ。初詣はともかくクリスマスデートでキスがない?   隼人的に絶対に、ソ、レ、ハ、ナイ!  彼女とは結婚するまでキスはしない。  一生がそんなポリシーを持っていることはまずないだろう。 『知らない』または『分からない』そう答えれば話は終わる。嘘ではない。隼人は一生ではないのだから。  けど、『そんなポリシー持ってないと思うよ』これが隼人の正直な意見だ。しかしこれはあくまでも意見であって答えではない。そしてこの意見は激カワちゃんを叩きのめすパワーを持っている。  だからと言って、『そんなに心配しなくても大丈夫だよ』とその場しのぎの言葉を贈るのもどうかと思った。本当は旭葵が欲しい隼人としては、一生と激カワちゃんがうまくいってくれる方がいいのだが、自分の都合のために周りを駒のように使うのは隼人の美学に反する。特に一生とは正々堂々と戦いたい。 「なんでそんなこと俺に相談するの? 一生のことなら俺なんかより湊や大輝の方が昔からの知り合いなんだからあいつらに聞いた方がいいんじゃない?」  ずるいかも知れないが、隼人は激カワちゃんの告白から逃げることにした。本当は一生のことを1番知っているのは旭葵だが、あえて旭葵の名前は出さなかった。  万が一激カワちゃんが隼人の言葉を真に受けて旭葵のところへ行くとも限らない。愛人が本妻と知らずに恋の相談をするようなシュールな状況は避けたい。 「2人にはこんなこと相談できません。だってあの辺はツーカーすぎて、そんなの本人に相談するようなもんです」  それもそうかも知れないなと思った。なるほど、だから少し距離のある自分に白羽の矢が立ったというわけか。 「本当は桐島先輩のことを1番知ってるのは如月先輩だとは思うんですけど、如月先輩はなんかちょっと」  その先を言い淀む激カワちゃんを促す。 「旭葵が何?」  激カワちゃんはメロンソーダの入っていたカップを手に取り、空だと気づくとそのままカップを握りしめた。 「イヴの日、桐島先輩は如月先輩のお婆さんが入院したって聞いて、すっ飛んで帰っちゃったんです。自分もいつもお世話になっているお婆さんだからって。そのことについてはいいんです。次の日のクリスマス当日にイヴの埋め合わせをしてくれたし、たとえ私がイヴにあげたマフラーを如月先輩の家に忘れた挙句、ちゃっかりお婆さんが編んでくれたという如月先輩とお揃いのマフラーをしてきたとしても」  おいおい、あいつ意外と無神経だな。  自分が責められているわけではないのに、隼人はなんだか落ちつかない気分になる。旭葵が絡んでいるのでフォローしてやりたいが、どうフォローしたらいいものやら。 「私は知ってます。本来の桐島先輩は人からもらった物をどこかにうっかり置き忘れたり、被ったプレゼントをもう1人の前で平気で身につけるような、気遣いのできない人じゃないってことを。普段の桐島先輩は他人を思いやれるとても素敵な人です」  そう言うと、激カワちゃんははにかんだ。今日激カワちゃんが初めて見せる、本物の笑みだった。

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