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第120話
この子は本当に一生の事が好きなんだな。それもルックスだけでなく、ちゃんと一生の中身にも惚れている。いい子じゃないか。
隼人は心の中で誰にともなくコクリとうなずいた。
「でも桐島先輩は如月先輩のこととなると別なんです。それまでの桐島先輩とは別人のように、桐島先輩の全てが如月先輩を中心に回り出すんです。私、去年桐島先輩の家で先輩のお母さんと如月先輩の4人でご飯を食べたんですけど、その時私気づいたんです。桐島先輩は如月先輩がいると、私を見ているようで私を見ていないんです。桐島先輩自身気づいてないかもだけど、桐島先輩はいつでも如月先輩のことを見てるんです。視線を向けていなくても、話しかけていなくでも、桐島先輩の意識は如月先輩に全て向けられてるんです。私の頭を撫でながらもその手に桐島先輩の心はありません。如月先輩はただそこにいるだけで、桐島先輩の全てを私からさらっていってしまうんです」
「でも旭葵は以前君と一生をバスに乗せるために、自分から雨の中に飛び出したんだろう? 俺はその旭葵を迎えに行ったわけだけど」
「そうです。だから如月先輩は何も悪くないんです。悪くないどころかとても優しい人なんだと思います。でもあの時、バスの中から三浦先輩に如月先輩を迎えに行ってもらえるように電話した後、桐島先輩は私が止めるのも聞かずに次のバス停で降りたんです。途中でコンビニがあったからそこで傘を買って戻るって。もしかしたら自分の方が三浦先輩より早く着けるかも知れないからって」
そうだったのか。では一生が隼人に電話してきたのは戻って来る道すがらか、それとも隼人と旭葵をどこからか見ていたのかも知れない。
しかし、激カワちゃんの話はそこで終わりではなかった。
「でも私知ってるんです。バス停とバス停の間にコンビニなんてなかったんです。あの路線は私の通学路だから私はよく知ってるんです。あの辺に傘を売っているようなお店はないんです」
かける言葉がなかった。隼人自身、その話に驚き言葉が出てこなかったのもある。
「心理テストで大事な人が2人川で溺れていたらどっちを助ける? みたいなのがあるじゃないですか。桐島先輩はね、もし私と如月先輩が溺れていたら、きっと私を助けてくれると思うんです。でもその後、桐島先輩は迷うことなく川に飛び込んで如月先輩と一緒に溺れるんです」
「けど少なくとも一生は君を助けるわけだろう」
激カワちゃんは今にも泣き出しそうな笑顔を浮かべた。
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