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第131話

 帰り道、旭葵は気づくと足が止まりその場に立ちすくんでいた。 『一生が本当に好きなのはその子』  アサ!  一生が断崖で旭葵を呼んだあの日から、旭葵の中に澱のように沈んでいる疑惑。  一生のお母さんの言葉に激しく揺すぶられ、旭葵の気持ちを濁す。  本当は、一生の旭葵の記憶はすでに戻っているんじゃないだろうか? だとしたら、今の一生は旭葵を忘れたフリをしていることになる。  なぜ?  答えは旭葵には分かっている。  一生は、なかったことにしたいんだ。  一生が事故を起こした夜、旭葵にしたことを、後夜祭で旭葵にキスをしたことを、肝試し大会で旭葵を抱きしめたことを。  全部、全部なかったことにしたいんだ。 『旭葵君、お願い、一生を見放さないであげて』 「見放すもなにも、見捨てられたのは俺の方なんだけど」  そして一生が選んだのは自分ではなく激カワちゃんなんだ。  旭葵は両手で顔を覆う。もう、これ以上は、  心が、折れる。  玄関を開けるとお婆さんが旭葵を待ち構えていた。 「旭葵、そこへ座わんなさい」  帰りがずいぶん遅くなってしまい、怒られるのは分かっていたので、大人しくお婆さんに指差された位置に正座する。正直、言い訳をする気力もなかった。  が、お婆さんの口から飛び出したのは旭葵が思ってもいない言葉だった。 「旭葵、あんたブラジルに行きんさい」

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