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第141話
バイクのゴール地点には車で先回りした人たちがすでに最前線を陣取っていて、旭葵たちは息を切らせながらそのすぐ後ろに位置した。
「ねぇ、隼人はバイクがすごいって本当?」
「そっか、旭葵は去年隼人のレースを見ずに帰ったから知らないんだ。そうだよ、隼人はバイクが得意で去年もスイムは2位でゴールしたんだけど、次のバイクパートで一気に1位の選手を抜いて大差をつけてランパートに持ち込んで、そのまま優勝したんだよ」
「一生は1度バイクで事故ってるからな」
大輝が顔を曇らせる。
「1度でもああいう経験をすると、どうしても恐怖心みたいなのがどこかに残っていて、本人にその気がなくても身体が勝手にストップをかけちゃうんだよ。トライアスロンのバイクは時速30km以上は出すからな、普通の自転車を必死にこいで走って時速30kmって言うから、それよりも早いってことだ。隼人だったら35や40はいくんじゃないかな、いやもっとかもしれない。一生が隼人にバイクで勝つには隼人以上のスピードを出さなきゃらないってことだ」
自転車の時速40kmがどれくらいの体感なのかは分からないが、とにかくすごいってことだけは理解した。
一生が事故にあったのも同じような海沿いの国道だった。奇跡的にかすり傷だけで終わったが、死んでもおかしくない事故だったと聞いた。
一生……。
旭葵は寒くもないのに冷たくなった指先を握りしめた。
「旭葵、一生はきっと大丈夫だよ」
湊が旭葵の手を上から握る。
「おい大輝、あんま変なこと言うなよ」
「俺は真実を言ったまでだ」
いつの間にか周りには浜にいた観客の半分くらいの人たちが集まって来ていた。残りは最終ゴールの学校に向かったみたいだった。
「湊と大輝はこの後どうやって移動すんの?」
大輝が指差した先には1台の車が停まっていた。
「俺の親父も見に来てるから、旭葵もみんなで乗っていこう」
旭葵がうなずこうとすると、
「あっー如月君! こんなところにいた!」
ぐいと腕を引っ張られ、身体が後ろにのけぞる。
「行くよ! 君はゴールで準備して待ってないといけないんだから、早く車に乗って!」
上下ジャージに身を包んだ、学校の体育教師だった。
「先生待って、せめてバイクパートのゴールを見届けてから」
「ダメだ、ダメだ、そんなの見てたら間に合わない」
体育教師は有無を言わさずにその場から旭葵を連れ去る。
「バイクの結果は電話するから!」
湊がスマホを持った手を頭の上で振った。
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