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第143話

 確認しに行った女子はすぐに戻ってきた。 「なんかバイクで落車(らくしゃ)事故があったみたい!」  落車と聞いて旭葵の体温がすっと下がる。  何度かレースで落車事故を目にしたことがある。トライアスロンはとかくスイムでの死亡事故が取り沙汰にされることが多いが、バイクの落車事故も多い。 「なんか水泳部の選手らしい」  立っている足が震えた。 ――恐怖心みたいのがどこかに残っていて。  違う、大丈夫、落ち着け旭葵、それは一生じゃない。きっと水泳部は他にも選手が出場しているんだ。  その時、旭葵のスマホが鳴った。旭葵を押さえつけようとするいくつもの手を振り切って旭葵はスマホを掴み取った。  画面の“湊”という文字に指先が固くなる。通話ボタンを押したとたん、電話の向こうで湊が叫んだ。 『旭葵! 大変だ! 一生が!』  湊らしからぬ興奮した声だった。  が、それっきりプッツリと通信は途切れた。すぐに湊にかけ直すが繋がらない。  大輝も同じだった。旭葵の視界が暗く狭くなっていく。  落車、水泳部、一生が大変。  本当にマネキンになってしまったかのように身体に力が入らなかった。  あとはもうされるがまま、ぐいぐい帯を締められ、髪をアレコレいじられても、旭葵は表情一つ変えずただ呆然とそこに突っ立っているだけだった。 「さぁ! できた!」  女子たちが何か騒いでいるようだったが、旭葵の目も耳もぼんやりと霞がかかったようにはっきりしない。  手を取られて教室の外に出た。校門の前が人ですごいことになっているのはなんとなく分かった。  あと時々「うわっ」とか「すげえっ」とか言われて、写真を撮っていいか聞かれた。シャッター音と白いフラッシュで旭葵は弾けるように顔を上げた。  そうだ、こんなぼおっとしている場合じゃない。 「ねぇ! バイクで落車した選手はどうなった!?」 「えっ? ええっと」  スマホを手にした男子生徒はいきなり旭葵に腕を掴まれたじろぐ。 「誰か知らない!?」  旭葵はところ構わず辺りにいる人たちに聞いて回る。 「落車した水泳部の選手は大丈夫なのか!? 怪我はしてないのか!?」  校門付近がざわついたかと思うと、観客の誰かが叫んだ。 「そろそろ来るぞ!」 「誰か知ってたら教えてよ!」 「如月君!」  旭葵を迎えに来た体育教師に肩を掴まれる。 「先生! 水泳部の選手が落車したって、その選手が今どこにいるか知ってる!?」 「とにかく早くこっちに!」  旭葵は引きずられるようにしてゴール前に連れて行かれる。 「先生離して! 俺、行かなきゃいけないとこがあるんだ!」  その時、旭葵の周りでどっと大歓声が上がった。 「来た!」 「トップだ!」

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