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第145話
背中を叩かれ旭葵は過去から引き戻される。
「如月君ここにいたか。今日はすごいことになったね〜、いや〜、まさか桐島君がジュニア時代そんなに有名な選手だったとはね。で、とりあえずなんだけど表彰式でのキス云々は今日はなしってことで、ほら、外部の人たちの手前ねぇ。で、今日はもう帰っていいから」
そう言い終えると、校長はステージの方へと消えた。
「なんだよ畜生、散々人を振り回しといて」
「まぁまぁまぁ、旭葵落ち着いて」
湊と大輝が旭葵をなだめにかかるが、沸々と湧き起こってくる怒りがどうにもおさまらない。
「今日まで悩んでた俺の時間を返せこの野郎、誰がキスなんかしてやるかってんだ、ざけんな、うおっ」
突然腕を掴まれたかと思うと、そのまますごい勢いで引っ張られる。ステージの方から「あ! 桐島君ちょっと!」と声が追ってくる。
「話の続きはまた今度!」
くるりと頭だけ回し、そう言ったのはさっきまでステージの上にいた一生だった。一生はそのまま旭葵の腕をとって走る。
一生が旭葵を連れて向かった裏門には、1台の車が止まっていた。
「おい一生、いったいどこに行くんだよ」
「病院」
待っていたのは水泳部の顧問の先生で、2人が後部座席に乗り込むと――旭葵は押し込められたと言っていい――すぐに車を発車させた。
落車をしたのは水泳部の一生の後輩だった。
車内で落車の時の様子や選手の状態などについて話しているうちに、病院に着いた。今回もまた一生のお母さんの病院だった。
後輩は幸い脳震盪を起こしただけで大事には至らないと分かり、一同はほっとする。顧問の先生と駆けつけた後輩の母親が廊下で立ち話をしていると、一生が旭葵を呼んだ。
「アサ、ちょっとこっち来いよ。その格好じゃさっきから目立って仕方ないだろ。母さんが着替え持って来てくれるって」
そう言う一生もトライアスロンのウェアのままだ。
2人が入ったのは誰も使っていない病室だった。
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