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第147話

 一生の両親の離婚は一生のお父さんの浮気が原因だった。  いや、それはもはや浮気と呼べるものではなかった。  一生のお父さんには結婚する前、男性の恋人がいた。けれど人並みの家庭と自分の子どもを持つことが諦めきれなかったお父さんは、一生のお母さんと結婚した。  男性の恋人とはその時、別れた。けれど十数年経っても、お父さんの彼への想いの火種は消えることはなかった。  人づてに彼の近状を聞いた時、彼は病で余命半年と宣告され、あとは死を待つばかりという時だった。  居ても立っても居られなくなった父さんは彼に会いに行った。彼と再会して父さんは確信した。誰を自分が本当に愛しているかを。  これ以上自分の気持ちを偽れないと思った一生のお父さんは、お母さんに全てを話し離婚を承諾してもらった。  一生のお父さんは今、彼が住んでいた部屋に一人で暮らしている。 「もちろん父さんの死んだ昔の恋人にも同情する。でも俺は父さんに捨てられた母さんを目の前で見た。自分が信じていた愛が虚像だったんだ。それも1年や2年じゃない、16年間だ。父さんが母さんを奈落の底に突き落としたのなら、俺が母さんをそこから引っ張り上げて幸せにしてやると思った。父さんなんかいなくても、いや父さんがいた時よりもずっと幸せだと思えるような、そんな人生を俺が母さんに送らせてやると思った」  一生は目頭を押さえ、喉をかすかに震わせた。 「そのためには、俺はアサを好きになってはいけなかった。父さんと同じことを母さんの前でしてはいけなかった。そんなことをすれば、俺は母さんを幸せにしてやるどころか、母さんは俺を見る度に思い出すだろう、自分より男の恋人を選んだ父さんのことを。そしてきっとこう感じるだろう、自分はこれに負けたのか、って。あの気丈な母さんが俺の前で泣いたんだ。“あなたはお父さんみたいにならないでね”って。俺はそれを見て誓ったんだ。俺は絶対に母さんを泣かせないって」  お母さんを泣かせないと誓った一生が今、旭葵の前で泣いていた。 「けど、アサへ想いを殺せば殺すほど、アサが好きでどうしようもなくなって、アサが隼人と付き合ってると知って、俺と後夜祭でキスした直前に隼人とキスしたって聞いた時、嫉妬で何も考えられなくなって、アサにあんな酷いことをしてしまった」 「ちょっと待って、俺が隼人と付き合ってる? キスってなに?」  一生はことの経緯を説明してくれた。  なるほど、それでこの前隼人が放送であんなことを言っていたのか。時折旭葵が引っかかっていた一生の言動の謎も解ける。

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