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第151話
今日は一生のお母さんが夜勤なので旭葵が一生の家に泊まりに来ている。
ベッドでスマホをいじっていた一生は起き上がると、旭葵に覆いかぶさるようにして唇を合わせてきた。
あれからこうして一生とよくキスをするようになった。
でもまだキスまでで、それ以上はない。
キスをしながらでも一生がその先を望んでいるのがその火照った身体を通して伝わってくる。
でも、あの夜のことがあるせいか、一生は決して無理強いするようなことはなく、いつも旭葵の反応を窺っているように見えた。少しでも旭葵が拒絶を見せるとすぐに身体を離した。
一生にはっきりとキスの続きがしたいと告白されて、旭葵は調べた。あの夜の続き、男同士のキスの続きを。
そして怯(ひる)んだ。
こ、これは、どっちがどっちをするのかと一生に聞くのは愚問だろう。
無理。
そう思った。でも一生ははっきりとしたい、と言った。一生の気持ちにはできるだけ応えてやりたい。
頑張ればどうにかなるかも、いやでもやっぱり無理。
その2つの間を行ったり来たり、旭葵はずっとしている。
今も深いキスの間から一生が自分を求めているのがひしひしと伝わってくる。
ボンッ、と重量感のある破裂音が窓の外から聞こえた。
「何?」
旭葵は一生の下から這い出ると、窓を開けた。冷房の効いた部屋に生温かい空気が流れ込んでくる。
「そう言えば、今夜は浜の花火大会の日だな。ここからは音だけで花火は見えないよ。今からでも間に合うと思うけど、見に行くか?」
「ううん、音だけでいい」
旭葵は首を横に振ると、花火の音に耳を傾けた。
ふっと部屋の明かりが落とされると、一生が旭葵のすぐ後ろに立った。
「アサ」
旭葵の身体に手を回す。
なんとなく、旭葵は今夜がその日だと思った。
一生が旭葵の首筋にくちづける。濡れた舌先が這い上って耳たぶに触れる。全身のうぶ毛がぞわりと立ち上がり、身体に力が入った。
「俺の姫になってくれよ」
旭葵の耳を噛みながら、一生の掠れた低い声が耳の奥を刺激する。
「いや?」
旭葵は回された一生の手を上から握った。
「いや……じゃない」
一生が顔を離した。
「本当に?」
その声にわずかばかりの驚きが混じっている。旭葵は顎を引いた。
「そんなこと言うと、今日はもう止めないよ?」
「……」
「アサ?」
旭葵の沈黙を肯定と取った一生は、旭葵をベッドの上に押し倒した。
「今からいやだって言ったって、もう遅いからな」
そう言うと、深くくちづけてくる。始まりの合図のキスはどこか早急だった。
それでも舌を絡め合うキスにいつものように旭葵の頭の芯がとろけていく。
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