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第158話

「アサ、ごめん、最初の方、辛かっただろ」  まさか最初からいきなりこんなに激しくされるとは思っていなかった。憎まれ口の一つでも言ってやりたい気分だったが、一生にまた唇を奪われ、そのチャンスを逃す。 「アサとずっとこうしたかったから、嬉しくて歯止めがきかなかった。本当にごめん、次はちゃんともっと優しくするから」  ごめん、ごめんって、一生はなんでもすぐに謝れば済むと思って。けど旭葵は一生のごめんに弱い。  それになんだか、さっきまであんなに雄々しかった一生がこうやって旭葵に抱きついて謝ってくる姿が可愛くも思えた。 「別にいいよ……、それに最後の方は気持ちよかったし」  あられもなくよがってしまった自分が急に恥ずかしくなって、消え入りそうな声になる。  一生は汗で湿った旭葵の前髪をかき分ける。 「ああ、あのアサ、すごい可愛かった」 「可愛い言うな」  一生の顔面を手の平でぺしっと叩く。 「すごく綺麗でエロかった」  一生が広角の上がった口からぺろりと舌を出し、旭葵の指の間を舐めてきたので、慌てて手を引っ込める。 「このエロ大魔神」  旭葵はくるりと一生に背を向ける。まだ熱くて固い一生のものが中に入っているようで身体の収まりがつかない。 「アサ、眠い? 寝ていいよ」  一生が腕を回してくる。眠くはなかったが目を閉じる。  しばらくすると背中からメロウな旋律が聞こえてきた。  Oh my baby, You are so beautiful to me.  その甘い歌声が旭葵にそっとまどろみのヴェールをかける。  目覚めると、すでに太陽は空の一番高いところに上りつめていた。玄関を出ると綿菓子のような入道雲が浮かんでいる。 「そんなに急がなくたって、もう少し待ってくれたら俺も一緒に出られるのに」  さっき一生のお母さんから、通販で買ったアイスが夕方に届くから受け取ってほしいと、電話がかかってきたのだった。 「いや、昨日の夜ごはんもよもぎにやるの忘れちゃってるから、マジで早く帰ってやらないとヤバい」 「あ、そうだ」  一生はポケットに手を突っ込むと、何かを探すような素振りを見せる。 「アサ、これ。前に喧嘩した時突き返されてそのままだったからさ」  一生が旭葵の手の平に乗せたのは姫バッチだった。 「今さら……」  こんなものがなくても、と思ったが、旭葵はそのまま手を握りしめた。 「じゃあ、また後で」 「ああ、荷物受け取ったらすぐにそっちに行くから」  玄関先で2人はキスを交わす。一生が舌を入れてこようとしたので、旭葵は笑いながら一生の胸を押しやった。 「続きはまた後で」  灼熱の太陽を日影によけながら、旭葵は家へと急ぐ。  角を曲がった時、ぶわっと大きな風が吹いて汗ばんだ首筋を撫でていった。旭葵は立ち止まるとポケットから姫バッチを取り出した。  三河の紋章の上に赤で大きく“姫”と書かれている。  バッチを高く放り投げる。青い空に太陽の光をうけてバッチが光る。 『アサ、俺の姫になれよ』  少年の日の一生が白い歯を見せて笑う。  キラキラと落ちてきたバッチを受け止めると、旭葵は駆け出した。  了  旭葵と一生が結ばれるまで、大変時間がかかりましたが、  最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!   コメントなどをいただけると、大変喜びます。(涙)  また、別の作品で皆さんにお目にかかれることを楽しみにしております。  

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