2 / 20

そして、その年の年末 2

 うちの基本の門松は松と竹としめ縄でできたシンプルなものだ。あとは注文主ごとのオプションで梅の古木や葉牡丹、南天や蝋梅を植え込んだり、ミニチュアの正月飾りや「賀正」「謹賀新年」などの文字を飾ったりする。 「門松ってのは真ん中にある竹が目を惹きますが、大事なのは松なんです」  職人頭の敏さんの説明を、玄英は興味深そうに聞いている。 「冬の緑ってのは縁起物なんでさ。場所によっては松だけの門松ってのもあるくらいで」 「縁起もの?グッドラックチャーム?」  シートの上には敏さんが丸ノコで斜め切りにし、専務の達さんがカンナをかけてくれた約1メートル半前後の竹が、揃ったパーツのようにずらりと並んでいる。角度を揃えて切り口を美しく仕上げるのが熟練の技だ。 「地方によっちゃらわざわざ節のとこで切って、『笑い竹』ってのを作ったりしますがね。この竹をそれぞれ七、五、三の割合の高さにして、三本組んだんが門松の基礎でさ」 「どれでも使っていいの?わあ。竹って結構重いね?」  張り切った玄英がさっそく竹を運ぼうとする。 「長さを測るんだよね。メジャーは?」 「ああ、社長。そうやって無造作に選んでっちゃいけません。坊ちゃん」  敏さんが玄英を止め、俺は玄英の竹を二本だけ元に戻し、代わりの竹を選び直した。 「山で真っ直ぐな竹だけを選んで運んでるはずなんだけど、それでも自然のモンだから太さや形がちょっとずつ違うんだよ。お互い微妙に反っててイマイチ収まりが悪かったり」  山で竹を切って運ぶ作業は、なかなかの力仕事で祖父ちゃん以下高齢化の進むベテラン職人には年々厳しくなっている。今年はついに若手の三人ーー40代の清さん、30代の俺、20代のダイに一任された。山で竹を選別する(選球眼ならぬ選竹眼?)のはこの道四半世紀の清さんには敵わないが、制作の方は十代の頃から手伝っているのでそれなりにわかる。 「これが七だとこれが三、間に五ーー選んだ段階で仕上がりをイメージして、相性のいい三本をちゃんと選んでやるんだ」 ちなみに長さは「何センチ」という測り方ではなく、敏さんが長年の腕で見事に切り揃えた切り口を目安に微調整しながら位置を決めるーー目分量といえば目分量だ。結束バンドで三本を仮止めし、最後に根元を切り揃えるのだ。 「なるほど!奥が深いね!恒星、達人みたいでカッコいい」 「馬鹿。俺なんかまだひよっ子だわ」 「坊ちゃん!いくら仲良いからって、社長に向かって馬鹿だなんて……」 「今日は俺が師匠なんだからいいんだよ」  ここん家は昭和のタイムポケットだから、職人の辞書にコンプラとかパワハラという言葉は無い。 「で、これと同じのをもう一組選ぶ」 「はいっ、ごしゅっ……じゃなかった、師匠」  玄英は尻尾があったら思い切り振ってそうな満面の笑みで、俺の後にいちいちついて来ては指示待ちしている。社長やってる時と全く別人でクッソ可愛いんだが、ここで俺までデレたら仕事にならない。  俺は互い違いになった竹の束を二組作り、脇にある作業台に運ぶと切り揃えた高さが同じになるよう印をつけた。 「玄英。そっちの端押さえてて」 「はいっ♪」  根元を揃えた三本をわら縄で男結びに縛り、どこから見ても真っ直ぐになるようバケツ型の容器に据え付けるーーコレもなかなかコツが要る。土を入れて固定すると七、五、三の門松の基礎の出来上がり。  門松というのは左右対称の一組でなければならないので土台をもう一つ作り、メインの松の枝も二つを見比べながらミラー型の一対になるように差していく。最後に容器を菰で巻いて隠し、しめ縄を飾る。基本のシンプルな門松の完成だ。 「できた!」  自分が手伝って完成した最初の一組を見て、玄英は本当に嬉しそうだった。

ともだちにシェアしよう!