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そぎと寸胴 1

「坊ちゃんとイチャつきたいだけなら、お帰り願えますかね?遠山社長」 「わああっ!」「きっ、清さん……」  背後から清さんのドスの効いたローボイスでドヤされ、心臓が縮み上がった。  清武さんは青葉造園期待の若手社員(当社比)であり、俺の小さい時から世話になっている、兄貴兼母親代わりのような存在で祖父ちゃんの次に頭の上がらない人だ。  この人だけは俺達の仲を知っているーーが、決して認めてもらっている訳ではない。たまたま俺の部屋で半裸で絡み合っているところ(一応未遂)を見られてしまったので……完全に俺が悪いし、祖父ちゃんに黙っててもらってる分、頭が上がらないんだけど。 「嫌だなぁ。初めて作った門松が完成したのが嬉しくて、恒星とハグし合ってただけですよ。ほら」  何故か開き直った玄英は、覆いかぶさるように堂々と抱きついて頬擦りまでしてきた。清さんは腕組みしたまま国宝阿吽像(あうんぞう)のの方そっくりな顔をしたままこめかみの静脈を痙攣させたーー冬の雷、電撃百万ボルトが落ちる五秒前ーーヤバい。 「くっ、玄英っ……!ふざけてないで、仕事しよっ。な?」  慌ててまた玄英を押し退け、出来上がった門松にやっと届け先の名札をつけることができた。 「ほら玄英、次の竹選びに……」  ちょっ……!なに清さんとメンチ切り合ってんだよ!この命知らず! 「遠山社長。こちとらこれでも、これで飯食っててかき入れ時なんでさ。物見遊山の御接待にはおつき合いできかねます」 「清さん、いくら何でもそんな言い方……」 「それは残念ですね。僭越ながら、こちらの大事なお坊ちゃんの面倒でしたらずいぶん見させていただいてるつもりですが」  玄英、目が笑ってないで笑うのやめて……なまじ美人なだけに怖い。つかゴリゴリの帰国子女のくせ、「センエツ」なんて単語どこで覚えて来たよ?新しいパターンじゃね?これ。 「面倒ねえ……お綺麗なツラして一体どこの面倒見てくれてんだか」  清さんっ!微妙に下ネタ!  それでも玄英救出作戦の時は色々ヤバいのに来てくれたし、身体を張って俺と玄英のこと守ってくれたし……てっきり仲直りしてくれたんだとばかり思ってたのに。俺と口きかないとかならともかく、玄英との仲は険悪になるばかりだ……何故? 「何なら坊ちゃんの再就職も僕の会社でお引き受けいたしますが?」 「いいえ、お構いなく。坊ちゃんは青葉造園の大事な四代目社長でさ。社長同士ならあんたと同格だ。あんまりナメた真似しねぇでもらえますかね?」  いや、色々とツッコミどころありまくりなんだが……一体何の勝負だ?   「とにかく、不埒な考えのまんまで大事なお客さんの門松を扱って欲しくねぇんです。歳神様が宿る依代ですから」  清さんはの方の顔でそう言い捨てると、自分の作業に戻って行った……チビるかと思った。なんせ日本刀でガチで銃弾を止めようとした漢である。  特攻の生き残りで、終戦を知らずに南方でサバイバル生活してた旧日本兵並のメンタルに違いない。オーラ半端ないったら。  そしてその清さんに一歩も引かずに「タイマン上等」な玄英って……実は密かに恐ろしい子なのでは…… 「さー仕事仕事っ♪」  切り替え早すぎだし! 「ねぇ恒星?」  二組目の竹を選んでいる時、小首を傾げた絶妙な角度の上目遣いで玄英が聞いてきた……あざと可愛すぎるし!

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