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あの人は、今
この人の元彼ってのが世界的なお騒がせセレブで、去年の年末にストーカー化して大変だった。玄英が監禁されて俺は銃撃されそうになったり……前の会社辞めた遠因も何ならヤツのせいなんだけど。
みんなのお陰で玄英を間一髪助け出し、無事(非公認)バカップルに戻る事ができた。
なお、色々やらかした元カレのユーラはその時の騒ぎで現行犯逮捕されたが、玄英が監禁と発砲に関しては事件にしたがらなかったこと、イメージダウンを恐れた船会社に全面協力させたこと、奴が日米混成でオーバースペック気味なやり手弁護団を雇ったこと……などなどあってあっさり釈放され、アメリカに帰国してしまった。
俺はスッキリしなかったが、早く忘れたい玄英の気持ちもわかるし仕方がないと思っていた。
が、奴がアメリカに戻った途端、経営していた企業の不正が次々と発覚し、結局あちらで逮捕された。
カリスマ弁護団に支払う巨額の報酬と、噂じゃ「ユーロの小国が一個買える金額」だという保釈金のために世界中の不動産やら車やらジェット機やらを売り払い、会社も売り払った。
そうこうしているうちに逆に会社からも訴えられ、「訴訟王」の別名に恥じない(恥じないでいいのか……?)いかにもアメリカ的な何でもアリの法廷劇は日々マスコミやゴシップニュースサイトに話題を提供している。
お決まりの自伝が出てハリウッド映画化されるとかされないとか何とか……ちなみにそこまでして勝ち取った保釈は、何だったかやらかしてすぐに取り消された。
ここまで来るとまるでカオスなリアリティショーを見ている気分だが、東洋的には「天網恢々疎にして漏らさず」……って事でいいのかな?
日本のメディアでも彼の逮捕劇は大きなニュースとなり、裁判の法廷映像も流れた。
初めて船上パーティで出会った時、ハリウッドスターと見間違えたほどゴージャスでワイルドな(見た目だけは)いい男だったのに、出廷した彼は人相の悪さだけが目立つしょぼくれたオッサンになり果てていて、身なりにも構わずかつての圧倒的なオーラはすっかり消え失せていた。
何も知らずに「近所のスーパーで万引きした、孤独死予備軍の困り者オジさん」の裁判だと説明されたら、むしろそっちの方を信じてしまっただろう。
ちょっと愕然とはしたが、さらさら同情する気なんか起きない。
「小学校の学級会でみんなに『ごめんなさい』するとこから人生やり直せってんだ」
画面に向かって思わず毒づいたら、たまたま横で一緒に観ていた玄英が腹を抱えて笑っていた。この反応を見て「ああ、吹っ切れたんだな」と少し安心した。
俺から見たら人間性カス以下のヤツだが、玄英にとっては昔は尊敬して崇拝していたという長い付き合いの元カレ(兼・初めての男でご主人様だと……クソ!)だし、さすがに心中複雑だろうと思っていたので。
その時予定していた「クリスマス休暇をリゾート地で玄英の家族と過ごす」計画は今年も実現できそうにない。
一度は祖父ちゃんから「中途半端に戻るな」と言い渡された青葉造園だが、平均年齢の高齢化には逆らえず職人さんのリタイアや入院が相次ぎ、ついに本格的に助っ人に入らざるを得なくなった。
それを玄英に伝えたら門松作りの方に興味を持ったらしく、クリスマス休暇返上でくっついて来たーー今年の年末年始の平穏なこと!
うん、平和って最高だな。平和しか勝たん。
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