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そして、その年の年末 3

「ね、写真撮ってSNSに上げていい?説明は……ニュー・イヤーズ・アミュレット……いや、デコレーション・パインでいいかな?」 「英語だとそんなんなるのか?……でも、門松ってただの松飾りじゃなくて、歳神様の依代なんだよなぁ」 「トシガミ様のヨリシロって、何?」 「あー、何だろ。スピリチュアル・オブジェクト……?神様が宿る……お正月の間の神様の家っていうか」 「カミのイエか……でもこれ、一軒に二つでしょ?あとの五人はどうするの?」 「五人……?」  はて?  ……あ、もしかして前にイラストで見た、七福神のことを言ってるのか? 「えーと、それともちょっと違うっていうか。歳神様っていうのは神道の神様に近くて、そこまでキャラ立ちしてない感じ……?」  いや、何言ってんだか。  実家には神棚と御先祖様の仏壇が両方置いてあって、八百万の神様が云々とか言いながら仕事ではクリスマスの電飾からハロウィンの寄せ植えまで請け負うし……一神教の国から来たらかなりカオスな宗教観じゃないかな。玄英は玄英でその辺ライトっていうか柔軟性を待ってて、お互いあんまり気にしたことはないんだけど。 「門松は……二つで一軒の家っていうイメージ……かな?」 「二つで一軒……?」 「あんま詳しくないから……違ってたらゴメン」  そもそもこういう定量化って正解なのか?  キリスト教の神様って、形のない精神エネルギーの塊というか炎のような(?)イメージだと聞いたことがあるけど……実感を持って相手の持ってるイメージを想像すんのって難しいな。  たぶんこういうのをお互い説明するために、宗教学とか哲学とか、形に見えないモノを云々する学門が存在するんだろう。 「まあまあ、坊ちゃん。あんまり最初にいっぺんに説明しても、ね。ダイの奴だって二年目でまだちんぷんかんぷんだし。けど、数作ってるうちにおいおいわかると思いますよ?」  俺達の門松を確認しに来た専務の達さんが、スポ根精神論レベルのざっくりなアドバイスをくれた。  そ、そういうもんなの?  あ。喋ってないで仕事しろってことか。  確かにあれこれ考えるより先にしなきゃならない作業は山ほどある。正月に二度寝でもしながらゆっくり考えるか。  達さんは「写真撮り終わったら、これ掛けといてください」と届け先を記した札を置いていった。  社長の孫ではあるが家業を継ぐ気はないため繁忙期だけのバイト要員止まりの俺だが、それでも基本の門松に関しては十ン年選手である。NGが出ることはまず無い……が、厳しいベテラン職人さんの目でOKが出されるまで多少は緊張する。  俺達の門松が無事にお客様の門松になったーーちょっとホッとした。 「これはこれでカッコいいけど……去年のエンプレス・ソフィア号のはもっと大きくて色々飾ってあったよね?」  鼻歌混じりで写真を撮りながら、屈託ない調子で玄英が言った。 「……」 「ん?どうしたの?恒星」 「や……、あんた絶対トラウマになってると思ってたから。あの時を思い出すような話はなるべくしないように俺、気をつけてだんだけど」 「あ、そうだったの?」  玄英がにっこりと端麗な笑みを見せた。 「気遣ってくれてありがとう。でも、僕なら平気。優しいご主人様が癒してくれたから」  そう言って俺を情熱的にハグしてくる玄英。 「馬鹿っ……こういうことすんなって!」  俺は慌てて玄英の腕を振り解き、小声で囁いたーー二人だけの時なら嬉しかったしデレたかったんだけど。この人、TPO無視でしょっちゅう絡みついてくるから(やっぱ可愛いけど)困る。 「ええー……ただのハグなのにぃ……ごしゅ……」  俺は慌てて玄英の口を塞ぎ、顔を近づけた。 「それと人前で、ご主人様って呼ぶな!」  俺は顔を真っ赤にしながらあたりを見回した。 「みんな仕事忙しくて、誰も気づいてないよ?」 「黙れ駄犬」  油断も隙もない……

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