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南天と蝋梅 1

 ともあれ、二人がかりで作業しているうちに彼も色んなコツを掴んできた。俺も細かい改善点を見つけてはスキルを積み重ねるーー職人仕事は毎年勉強だ。  パートのおばちゃん達が作ってくれた煮込みうどんのまかないサラ飯をご馳走になると、俺は玄英とダイを三人乗りのトラックに乗せて配送に回った。 「雪、降らなくてよかったです。去年は大変でした」  俺は運転、ダイを挟んで助手席の窓側に座る玄英は頬杖をつき、昭和の建物が残る旧市街地の風景を興味深そうに眺めている。 「あー、そんな事もあったっけな」  もっと大変な事があったせいで、すっかり忘れてたわ。  例年より温かい冬晴れの午後だが、窓から差し込む日差しも街に投げかけられる陽光も既に横向きで、街路の半分を覆う長い影と明るい日向のコントラストを見ているだけでなんとなく切なくなる。これが郷愁ってやつなのかもな。  玄英の明るい色の遊び毛が金色に躍ってある。いかにも知識層らしい細長く繊細な指も、色素の薄い肌も瞳も光の中で儚く透きとおり、雪のように溶けてしまいそうだーー本当は力仕事なんかさせずにこのままずっーー 「坊ちゃん。信号、青」  信号待ちの合間につい、ボーッと見とれてたせいで後ろの車にクラクションを鳴らされた。 「ああ、ごめんごめん」 「そう言えばダイはお正月、国に帰らないの?」  助手席の玄英が、あっけらかんとダイに聞いた。 「ベトナムは旧暦の正月なんです」 「ああ、アジアの国はそういうところが多いね。中国とかーー日本は新暦だけど」  そう言えばそうだな。お盆は新盆の地域と旧盆の地域があるのに…… 「やっぱり賑やかなの?」 「はい。お祭りですね。懐かしい人にも会えるし、楽しみです」  ダイは心底嬉しそうに笑った。  俺なんか生まれてこの方、ずっと国内どころかずっと都内で、実家とは切っても切れない人生だから、いつもニコニコと気のいいダイの心中は想像できない。生まれた国を離れて年に一度くらいしか帰らない生活って、どんなんなんだろう…… 「いいね。遊びに行ってみたい」  あ。そう言えば玄英もそうなのか。まぁこいつの場合、実家も特殊っぽいから…… 「チケットとお土産代は出すからさ、ダイの実家に民泊させてよ」 「えっ、今年ですか?」  ただのリップサービスかと思って聞き流していたのだが、そういえばこいつの辞書に「思いつき」という言葉はあっても「社交辞令」という言葉はなかった。 「うん。家の人に聞いてみてくれる?」  さすが好奇心が服着て歩いてる研究者兼実業家。 世界の果てまで行ってみる番組並みにフットワーク軽っ! 「はい。社長が来るならみんな喜ぶと思います」 「あと、玄英でいいよ。言っても青葉造園(ここ)の人達、なかなか直してくれないけど」 「はい、玄英さん」 「じゃあダイ、ついでに俺も名前で呼んで」 「ええ?坊ちゃんは坊ちゃんですよ」  何でたよ! 「恒星も行くよね?年明けは閑散期でバイトの予定も入れてないって言ってたじゃん?」  そして気軽に人を巻き込みにかかる玄英。 「は?いや、それはそろそろ就活に本腰入れようかと思って……」 「えっ?まだ諦めてないの?僕の会社か青葉造園でいいじゃん」 「何でその二択なんだよ!」  

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