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南天と蝋梅 3
「華やかな関西の門松の影響もあるけど、これはモダン門松っていうのかな。これも清さんのアイディアだよ。祖父ちゃんは昔ながらの関東の門松にこだわってブツブツ言いたがる人だから」
SNSのお陰で今は、目新しくて映えるものほど情報が回って広まるのが早い。現に俺が子どもの頃、ハロウィンや恵方巻きなんてのをそこいら中で誰もがやってるわけではなかった。
もちろん正しく伝統を伝えていく事も大事だ。だが、生活の仕方が変わっていく事で廃れて忘れ去られるよりは、時代に合わせて形を変えてでも残り続けて、節目節目で色んな人をちょっとずつ幸せな気持ちにしてくれるーー俺はそっちの方がいいと思う。
「南天と蝋梅が綺麗ですね。赤と黄色はベトナムでもおめでたい色です」
ダイも会社の宣伝用に写真を撮りながら、充足感を滲ませて嬉しそうに言った。
「いやぁ、さすがは青葉造園さん。毎年素晴らしい出来ですね。売り上げも倍増できそうです」
確認にやって来た先方の担当者さんがそう言ってくれたので、こっちも達成感倍増だ。
「御社も国際色豊かになりましたね。これも時代ですかね」
外国籍はダイ一人だけだけどなーー俺は曖昧に頷きながら苦笑した。ともあれ今日の仕事はこれで終わりだ。
「よし、二人とも帰るぞ……あれ?」
そばに居たはずの二人がいない。と思ったら、いつの間にか女子高生だか女子大生だかの順番待ちの列ができていて、ちょっとした自撮撮影会状態になっていたーー油断も隙もねえ!
玄英は割とこういう事には慣れてるのか、食い下がって個人情報を聞き出そうとするギャル(?)達を上手い感じにあしらっていたが、面食らったダイは終始あたふたしている。
「おい、何やってんだよ、帰るぞ」
「あ、上司の方ですかー」「ヤダ、職人さん三人ともイケメンとか神!」「よかったら一緒に写真入ってもらえませんか?」
俺は精一杯の営業スマイルで彼女達に「申し訳ありませんが、次の配送がありますので」と答えて二人を回収した。
「ったく、何やってんだよ!」
駐車場に出て、彼女達に聞こえる心配がなくなると俺は盛大に舌打ちした。
ーーダイはウチの大事な職人だし、玄英は俺んだ!ジャリどもめ!
「ダメだった?会社の宣伝になればと思ったんだけど……」
玄英がケロリと聞き返した。
「門松と一緒に友達同士で写真撮りたいって言うから、手伝ってあげたら何となくこんな事に……」
「相手が若い娘だからって、ベタな手に引っかかってんじゃねえよ。あの子らどうせSNSにあげる気だろ」
「友達にしか公開しないって約束してくれた」
「当てになるかよ。あんた、D'sTheoryの社長なんだぞ?経済誌の取材だって滅多に受けないくせに……SNSなんかで流れて変な風に受け取られたりしたら……」
「なぁに?心配してくれてるの?それとも妬いてんの?ご主人様っ♪」
玄英がはしゃいで抱きついて来た。
「馬鹿っ!こんなところでやめろ!ダイが見て……」
「見てないよ?」
ダイはスタスタと一人だけ先に歩いて、こちらに背中を向けている。
「他に人目があんだろうがよ!」
「群衆ってのは案外他人のことなんか気にしてないもんだよ」
そりゃ、中肉中背十人並みの容姿のアジア人ならそうかもしれんが……アンタは目立ち過ぎなんだよっ!
「ハグがダメなら恋人繋ぎで歩いていい?」
「ダメ」
油断も隙もないのはコイツだったーーーー!
玄英が実家で一緒に年末年始を過ごしたいと言ってくれて、俺は本当に嬉しかった。祖父ちゃんもみんなも楽しみにしてるし、清さんの謎の塩対応にもめげてないのが嬉しくて……
二人とも俺にとっては大事な人だし、お互いそのうち打ち解けてくれたらいいな、という淡い期待もあるんだけど……
波乱と不穏の予感しかしないのは気のせいか?
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