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南天と蝋梅 2

 いや、実家だってリタイア組続出してるし、祖父ちゃんだっていつまで元気かわからないからいつかは見かねて戻ることになるのかもしれないけどーー「継ぐ」という意味じゃなく、あくまで戦力の一人として。 「就活まだ諦めてねえし!俺だってまだ30になったばかりだし、全然別な可能性があるかもしれないだろ?それより玄英こそ、そんな休んでばっかで会社どうすんだよ?」 「新規の市況調査兼ねて、リモートで仕事はするよ?ウチの会社、僕が適度に留守した方がパフォーマンスいいみたい」  玄英はプライベートはこんなだが、会社では暴君……まではいかないにしろ、天才研究者にして経営者である自分基準の要求を次々と投げてくる、かなりハイプレッシャーな絶対君主らしい(ドMの変態だけど) 「それに取締役会が対面オンリーで万障繰り合わせてお来しくださいなんて言い張るの、君の古巣くらいだよ」   「悪かったな。あ、水島さん元気?」 「うん、頑張ってくれてる。彼女、物凄い努力家」  水島さんは前の会社で俺の上司だったが、組織再編とか色々あって玄英の会社に出向する事になった。  玄英がそんなだから居着かない人も多いらしいが、残った少数精鋭派に対しては崇拝の域で求心力を発揮している。彼らもいずれ劣らず、超人レベルにマルチタスクで有能な人ばかりでーーつか水島さん、前の会社では苦労人キャラが先行してたけど、オーバースペック通り越して超人だったんだな。 「自社製品開発ってウチも初めての領域だから、どうなることかと思ってたんだけど心強いよ。彼女も、前の会社より自由度高いし裁量権あるからやりやすいって言ってくれてる」 「そりゃよかった」 「だから恒星も来なよ。彼女、アイディアがまだまだあるみたいだし、きっと助かると思う」 「やだよ。水島さんだから勤まるんだよ」  カリスマ潤滑油こと内川補佐(現・後任課長)もいないのに、婉曲もぼかしもない社用語(英語)でさらに磨きのかかったダイレクトアタックとか……胃がもたんわ。  うん、こいつの会社に行くのだけはナイ。レベル違いすぎて、悔しさとかも全然無いし。  最後の配送先は、郊外にある自動車道路沿いの大型ショッピングモールだった。笹と葉牡丹つきの華やかな大型サイズだ。花や実のあるものは途中で落ちるといけないので、配送先に一旦据え付けてその場で飾る事になっている。  やはり左右対称に南天や蝋梅、早生の梅を生けて凧や餅、羽子板、金銀の縁起物のピックも飾る。そして仕上げに「迎春」のプレート。  作業しているうちに、遠巻きに緩やかに人だかりができる。配送の時は玄英だけではなく、俺もダイも景気づけに青葉造園の法被を着ているので、ちょっとした実演イベント状態だ。  買い物に連れてこられた子ども達がオブジェ目ざとく見つけてはしゃぐ。親達もワイワイ立ち止まって写真を撮ったりして、こちらも楽しくなるーー俺もああいう頃があったんだろうな。 「華やかで綺麗だね。こういう門松も作るんだ」  仕上がった門松を見て、玄英が感嘆した。 

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