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海と初詣 2

 近郊ではそれなりに名の知られた初詣スポットらしく、未明の中途半端な時間帯でもそれなりの数の参拝客が往来し、参道には屋台がずらりと並んでいた。二年参りの混雑が一段落し、日中のかき入れ時に備えて休憩中の店もあったがそれでも半分程度は営業中だ。 「わあ!日本のお正月は静かだと思ってたけど、ここはお祭りみたいですね!」  ダイもはしゃいでいる。 「ベトナムの旧正月はお祭りだって言ってたもんな」  ふんわり甘い香りにソースと焦げた醬油が混じった、屋台特有の食欲を刺激する匂いが漂っている。 「恒星。何か食べよ?」  背の高い玄英が上から絡みつくように戯れついてきた。 「うんうん、帰りにな」  恒星は軽くいなすと玄英の腕をやんわり解いた。見た目より酒が回っているのか、人目もあってダイもいるというのに何かとくっついてきたがるので困る。が、わざわざ日本に残る選択をした玄英がここまで喜んでくれるのなら、悪い気はしない。 「つか、さっき飲み食いしたばっかりだろうが」  色素が薄く中性的で儚げな見た目に反し、長身で筋肉質の玄英は体格に違わない量をしっかりと食べる。見間違いでなければ蕎麦だけで三人前は食べていた。 「日本の晩ごはんとか酒のサカナってさ、美味しいけどあっという間に消化しちゃうんだよねー」  それも酒豪と肉食の遺伝子のせいか。 「私はチキンが食べたいです」  ダイもにっこり笑ってそう言った。 「くっそ。みんな、胃袋若ぇよな。チキンか……そういや肉って寺の屋台でも売ってるもん?」 「串カツならさっき売ってたよ」 「マジで?」  そこで三人はふと、申し合わせたように足を止めた。  恒三に近いような年代の爺さんが、やる気がなさそうに小型ストーブにあたりながら縁台のの上に竹で作った干支の細工物やら縁起物やらを並べている。店というよりは露天商といった風情た。  定番屋台の派手派手しい看板の列の中、きっちりレトロな正月感を醸し出したそこだけがエアポケットのようだ。 「ね。これ、クールだ!」  玄英が指したのは、敷物の隅に立てかけられていた「龍」の字の和凧だった。 「おじさん、これ全部自分で作ったの?」  興味津々の玄英がひょいとかがみ込み、持ち前の人懐こさでたずねた。 「ああ、いらっしゃい。そうだよ」 「凧も作ったの?揚げられる?」  恒星も聞いてみた。  おじさんは笑いながら「揚がるように作ってるから、そりゃな」と答えた。 「ジャパニーズ・カイト!まんが日本◯話で見たことある!」 「ダイ、ベトナムにも凧ってあんの?」 「ありますよー。子どもの頃はよく遊びました」 「ビニールの三角凧と違って、こいつを揚げるにはコツがいるよ。兄さん、糸と足は自分でつけられるかい?」 「昔、祖父ちゃんに作ってもらったことあるから何となくわかります」

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