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第4話

 テーブル席が三つに、カウンター席が5つ。  決して広い店ではないのに、狭くて息苦しいと感じないのは、壁に飾られた海岸の風景写真や、店内に飾られた流木や季節の花のせいかもしれない。 「やだあ、みーちゃん一週間ぶり」  朝霧の視線はカウンターに座った一人の男に向けられていたが、マスターに声をかけられ慌ててそちらの方を向いた。 「座って、座って」   マスターに促され、先ほど見ていた男の隣に腰かける。 「よう」  男、夏川 良平(ナツカワ リョウヘイ)が片手を上げる。  その膝にはどう見てもまだ20代前半の男の子が乗っていた。  朝霧は自分の眉間の皺が深くなるのをとめられなかった。 「いつからこの店は風俗店になったんだ? 」  朝霧の呟きにマスターは肩を竦め、なにも言わずにギムレットとつまみのナッツを目の前に置いた。  昼にカップラーメンを食べたきりだから、少し小腹が減っていたが、この店に食事系のメニューがほとんどないことを知っている朝霧は黙ってナッツに手を伸ばした。 「ちょっとあんたも、いい加減にしなさいよ。男に振られたくらいでそんな泣かないの」  マスターが「めっ」と夏川の膝の上の少年を軽く睨む。 「だってぇ」  膝の上の少年は鼻をすすったが、そこから動こうとはしない。 「マスターいいんだよ。俺も役得みたいなもんだから」  夏川は軽い口調でそう言うと、朝霧の小皿から勝手にナッツを摘まみ自分の口に放りこんだ。 「おいっ」  夏川は悪びれもせずに、にやりと笑う。  男くさい顔立ちの夏川にはそういう表情がよく似合った。 「はあ、次付き合うなら、リョウみたいな優しい人が僕はいいな」  さっきまで泣いていたせいで真っ赤な目をした少年が、うっとりと夏川を見上げ呟く。 「嬉しいこと言ってくれるね」  夏川の言葉に被せるように朝霧が「ハッ」と笑う。  夏川と少年の視線が朝霧にむく。

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