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第6話

 呆れたのか、気がつけばショウも夏川の隣に座っていた少年も消えていた。  37歳にもなって店内で大声をだしたのが気恥ずかしくて、朝霧は頬を染めた。  でもどこかすっきりした気分だった。  慢性的な頭痛も、この金曜日の言い合いのあとは、かなり軽くなる。  夏川がマスターにお会計を頼む。  朝霧がギムレットを飲み干しているうちに、彼の分までまとめて支払われてしまった。 そのことに気付いた朝霧は慌ててスツールから降り、外に出た夏川を追った。 「いつも自分の分は払うと言っているだろ」 「大した金額じゃないから別にいいって。いつも言っているよな」  そう言われても8歳も下の男に奢られるのは、朝霧のプライドが許さなかった。  夏川が29歳にして、自分が地方や外国で出会った美味しいものを厳選したセレクトショップを3店舗、経営するオーナーだとしてもだ。  夏川は財布を取り出そうとする朝霧の隣で、タクシーに向かって手をあげた。 「乗らないの? 」  既に後部座席に乗りこんでいる夏川の問いに顔を顰めながらも、朝霧は隣に座った。  夏川の告げる自宅の住所をもはや朝霧はそらで言えるようになっていた。  こうやって一緒にタクシーに乗るような関係になってもう半年になる。  ふいに朝霧のスーツの股間に、夏川の手が伸びる。  ゆったりと撫でまわされ、朝霧は首を振った。 「やめろっ」  小さな声での朝霧の拒絶に夏川がふっと笑う。 「嘘つき。こういうシュチエーション、興奮する癖に」  夏川の言葉を証明するように、朝霧の股間はどんどん熱を帯びていく。  長い間、年下の可愛い子相手に『怖がらなくてもいいんだよ』と言って抱いていた朝霧は、こんな風に年下に追いつめられる自分が、未だに信じられずにいた。  熱い息を吐き、潤んだ瞳で朝霧は夏川を見つめた。

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