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第12話
「ああ」
スポーツドリンクを飲みながら、浴室の前に置いてある全身鏡に朝霧は自身の裸を写した。
痩せた自分の体にはこれでもかというほど、キスマークや噛み痕が散っていた。
毎度のことだが、朝霧はその数に驚かされる。
朝霧は浴室に入ると、髪の毛をざっと洗い、体も洗った。
自分の家とは比べ物にならないほど広い湯船で、全身を伸ばす。
ふうと息を吐いて、瞬きする。
温い湯が、傷に若干しみたが、深い長時間の睡眠により、頭はすっきりしていた。
本当に完璧な男だよな。
夏川のことを考えながら、朝霧はため息をついた。
その完璧な男が、何故自分とこんな関係を続けてくれるのか朝霧は分からずにいた。
そもそも2人は出会いからして最悪だった。
朝霧は半年前、『やどり木』で初めて夏川と出会った。
その日は朝からしとしとと細かい雨が降り続いていた。
6月らしい天気といえばそうだが、蒸し暑く、自分の額から流れる雫が汗なのか雨なのか、朝霧はもう分からなかった。
霧雨だから、傘を差すまでもないと思ったが、やどり木に着いた時、朝霧のシャツは濡れ、体に貼りついていた。
リュックから、ハンカチを取り出し、店の前で体を拭う。
このBAR『やどり木』は朝霧のお気に入りだった。
うるさい客も少ないし、スキンヘッドでこわもてのマスターも見た目に反し、温厚で面倒見のいい性格なのが好ましかった。
朝霧はすっと切れ長の目に、通った鼻筋、紅を引いたように赤い唇をしていた。小さい頃は日本人形みたいな顔立ちだとよく言われたが、37歳を迎えた今もその面影を残していた。顔がとても小さいのと姿勢が良いせいで、スタイルがいいとも朝霧はよく言われた。
年下の抱かれたいネコ希望の男の子からも美しい男として、朝霧はまずます人気だった。
朝霧は本質的には自分も抱かれたい側だったが、歳をとり、長身で綺麗とは言われても、可愛いとは言われない顔立ちの自分が、ネコとして需要がないことは分かっていた。
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