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第14話

「もしかして、うるさくしたから怒ってる? ごめんね。今日は弟みたいな奴が就職決まったっていうから嬉しくて。あんたの分の飲み物も驕るから許してよ」 「奢ってもらう必要はない」  そう言って朝霧は未だ肩にかかっていた、夏川の手を払った。 「俺は年上に敬語も使えないような礼儀のなっていない奴には奢られたくはない」 「ふぅん」  夏川は了解も得ずに、朝霧の隣のスツールに腰かけた。 「マスター、マティーニくれる? 」  マスターは頷くと、シェーカーを手にした。  出てきたカクテルに夏川は口をつけると、息を吐いた。  その息はかなり酒臭い。 「年下っていうけどさ、実際そんな変わらないんじゃない? あんたいくつ? 」 「人をあんた呼ばわりする奴に年齢を教える気はない」 「だって、あんたが名前教えてくれないからでしょ? 」  そう言われ、朝霧はこめかみに青筋をたてた。 「朝霧だ」 「へえ、下の名前は? 」 「……帝」 「可愛い名前だね」  夏川がにっこりと笑う。  笑顔で見つめられ、不覚にも朝霧の鼓動は高鳴った。 「で、朝霧さんはいくつなのさ? 」 「37だ」 「ええっ、俺より8つも年上なの? 見えない」  朝霧も夏川を年下だとは思ったが、妙に堂々とした雰囲気に30代だとばかり思っていた。 「分かったなら敬語を使え」  内心の動揺を隠し、朝霧は言う。 「嫌だね」  夏川の言葉に朝霧は唖然とした。 「敬語ってのは尊敬した相手に使うもんだろ。朝霧さんは俺より年くってるってだけで、ぎすぎすしているし、今のところ尊敬すべき箇所が見当たらないんだよな」 「何だとっ」  思わず立ち上がった朝霧の前に、ギムレットのお代わりが置かれる。 「これ私からのお詫び。ちょっとリョウ、みーちゃんはあんたと違って、騒がないし、他の若い子にも優しいし、いいお客さんなの。変なこと言わないでよね」  思わず声を荒げてしまった自分を恥じながら、朝霧は赤い顔で席に着いた。

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