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第15話

「みーちゃんって……ああ、さっきヨシが言ってた王子様か。身なりがよくて、スタイルもよくて、優しいって人気らしいね」  そう思われるためにわざわざ駅でスーツを着替え、腕には10年以上前に買ったブランドの時計を身に着けているのだ。  朝霧はふんっと鼻息荒く、ギムレットを飲んだ。 「でも若い子に優しいならさ」  ふいに朝霧は頤を熱い手に摑まれた。 「俺にも優しくしてよ。ね? 」  夏川の大きな黒目に吸いこまれそうになり、朝霧は息を飲んだ。 「リョウ、こっち、早く」  ミニスカートを履いた女性に呼ばれた夏川は朝霧から手を離すと、さっと立ち上がり、ウインクした。 「またね」 「またなんかない」  朝霧は赤くなった頬を隠すように、俯き、呟いた。  その翌週。 朝霧が、『やどり木』に行くと、夏川がカウンターに座っていた。  夏川の両隣りには若い男が陣取っていて、背中にも可愛い系の若い男がべったりと背後霊みたいに貼りついていた。  今まで『やどり木』で夏川と会うことなんてなかったのに、ついていないと、朝霧は小さくため息をつき、カウンターの端に座った。 「ねえ、リョウ。この三人なら、誰がタイプ? 」 「うーん。みんな好きなタイプだよ」  そんな馬鹿らしいやりとりを聞かされ、朝霧はギムレットを一気に飲み干した。 「そんな度数の高い酒、一気に飲んだら体壊すよ」  夏川の言葉に、朝霧はそちらに視線を向けた。  夏川の背中にべったりと貼りついていた男は、朝霧が以前抱いたことのある男だった。  夏川と目が合うと、男は気まずそうに目を伏せた。 「馬鹿みたいな博愛主義者のやり取りを隣で聞かされたら、誰でも飲みたくなる」 「馬鹿みたいって俺のこと? 」 「他に誰がいる? 」 「言ってくれるじゃん」  夏川は席を立つと、わざわざ朝霧の隣まで移動してきた。  不機嫌な朝霧が怖いのか、夏川にまとわりついていた男達はテーブル席に移っていった。

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