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同居スタート

 すっかりゴミ溜めになってた部屋のゴミを瑞希が拾っては袋に入れてまとめてる。  俺だって部屋がゴミ溜めになってくな〜〜ってのは気づいてた。  継ぎたくなかった家業なんてものを継いだわけじゃないけど手伝ってると、酷く無理してる自分に気づく。  暴力で自分の主張を通してきた父親。そんな父親の元に生まれたのに、平和が好きな俺。 「なんでお前はそんな腑抜けてんだ!俺の息子の癖に!」  殴られた幼い日から、怖くて親父が望むような息子を家では演じてきた、と思う。幼い頃は無茶してヤンチャに見られるように。成長してきてからは、学校の友達ではなく、家の若い者たちとバイクに乗って仲良くしてみせたり、ケンカのやり方を聞いてみたり。  本当は、同じ世代の友達と、部活だのに思い切り打ち込んでみたいなんて口に出そうともしなかった。打ち込みたいほど好きな事もなかったしな。  父親に次は殴られても負けないよう、腕っぷしだけは強くなろうとボクシングを習ってみたりもした。  大人になってからは、家業手伝うからという条件で一人暮らしをさせてもらってる。  あの家じゃなくて一人になれる場所が欲しかった。  そんな風に外で頑張ってこの部屋に帰ってくると、部屋の中なんてどうでも良くて、買ってきた物を食べては近くに空になった容器を落としたままにした。   こんなチンピラみたいな前髪をあげた髪型も大嫌いだ。父親みたいな喋り方も、派手な柄のシャツを着た若い衆も、嫌な奴じゃないと分かっててもあの世界が嫌いだった。  ゴミは溜まる一方で、兄貴って慕ってきた博美さんがたまに来ては、文句言いながら捨ててくれたりもしたけど、そう年中片付けの為に来てくれるわけはない。  博美さんは、俺がこの世界もサラ金業務を嫌ってることも知ってる唯一の兄のような人だ。知っててくれてるからこそ、一緒にいて少し居心地がいい。  そんな中、瑞希が現れた。  安易な考えだけど、店に出られるようになるまでの間、同居しながら家の事もやってもらおうと思った。  家事をやってもらって、店にも出てもらって、そうしたら、モヤモヤと燻り続けてる高校からのこの想いも無くなっていくかもしれない。  家事まで任せた嫌な奴になれたら、瑞希の方から俺に幻滅してくれるかもしれない。とことん自分は他人任せだなと思うけど、何がやりたいか分からない。ただ、平和に平穏にいたいんだ。『幻滅』する程に瑞希は俺に興味がないかもしれないが。  と、この家での家事を瑞希に任せたはずなのに、ちょこちょこと小動物のように動き回る瑞希を見ていたら自然と自分でも動き出して、片付ける瑞希を手伝ってた。  段々と見えてくるフローリング部分。    ゴミはまとめた瑞希が、そのフローリングを水拭きした後に空拭きしてる。「ほんとはワックスもかけたいんだけど、この部屋にないな〜。今度買ってこよう」なんて呟いてるから、瑞希には食費と生活費を考えた一定額渡すようだなと思った。  掃除もしてみると案外いいもんかもしれない。部屋がスッキリして、いつもモヤモヤしていた心も晴れていく気がする。これはきっと瑞希のおかげじゃなく掃除のおかげ。  

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