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パン・ド・ミ

 −−−島野瑞希side−−−  朝食を食べてから、遼一が車を出してくれて実家に行くことにした。     「別に一人で行ってくるから大丈夫だよ、遼一は遼一の休日を楽しんで」って言ったんだけど、 「俺は瑞希が行くとこならどこでも……いや、瑞希が楽しいなら俺も楽しい…何言ってんだ俺?」って、なんだか自問自答してたけど、車出して一緒にいてくれるって好意を断る理由もないから、申し訳ないけど、一緒にいてもらうことになった。 「懐かし〜〜〜って程でもないか」  玄関の鍵を開けて入ると後ろから「お邪魔します…」緊張した様子の遼一の声がした。 「遼一なんか緊張してる?」 「瑞希が育った所だからか?」  変な遼一。寂しいけれど、ここは手放すようだよね。  パン屋さんの店舗があって、二階は住居になってるこの家。  町のパン屋さんは二人の夢なんだって、小さい頃からよく話してくれたな〜。  せっかくその夢が叶って、夫婦でパン屋やって、常連さんもついて、俺も手伝えるようになってきてた矢先にこんな事になるなんて思わなかった。  店舗にも父と母の思い出がいっぱい。  奥に行って二階に上がっても。  サラリーマンやってた父親と休日遊ぶって言ったらパン作り。他の友達が野球とかサッカーの相手してもらってるって聞いたから羨ましくて一度、父親と広場でサッカーをした。  楽しかったけど、いつものパン生地を捏ねてる楽しさ、パンが焼き上がるまでのワクワクした気持ちの方が好きなことに気づいた。  それからは、休日の遊びと言えばパン作りだった。  生地が膨らむまでの時間、焼いてる時間、母に食べてもらって「美味しい」の言葉をくれる時間。全て好きな時間だった。  気づいたら、シンクに涙の池が出来ていた。遼一は、静かに隣に立っていてくれたらしい。 「最後に……ここでパン焼こうかな?」 「いいんじゃないか?時間はあるんだし。俺に遠慮なんてするなよ。瑞希の作ったパン食べてみたいしな」 「ありがとう!」  材料はまだある。  どうせなら、遼一に食べさせたいパンにしよう。    そうだ、あれ。あれを作ろう。  材料はこれとこれと………ボールに入れて、牛乳は40℃に温めて…と。 「瑞希、それ捏ねるの楽しいのか?」 「楽しいよ。遼一もやってみる?」 「やってみたい」  恐る恐る生地に触る遼一。きっと初めてなんだろうな〜。 「瑞希。これ、瑞希のほっぺたみたいじゃないか?」 パン生地がついた手で頬を抓られた。 「ほら、もちもちだ!楽しいなこれ」  楽しんでくれて良かったけど、粉ついたから顔洗わなきゃね。

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