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記憶

 −−−鈴木遼一side−−− 「お兄ちゃん、うちのパン屋さんのお客さん?ひなたのお兄ちゃんと同じせーふく着てるからお友達なの?どうぞ〜、パパのパン美味しいよ。今日はね、オープンでいそがしいから、お外でゆうひと遊んでてって言われたの。あっ、ゆうひって言うのは、ひなたの双子のお兄ちゃん。今かくれんぼしてて、ひなたがオニなんだぁ。お兄ちゃん?お店入らないの?そっちお店じゃないよ?お兄ちゃん?」 −−−−−−−−−−−  まさかあの時話しかけてきた瑞希の妹が覚えてるとは思わなかった。  よく喋る可愛い妹がいて、双子の弟とかくれんぼをしていて、今日は両親のパン屋のオープン日。行ってはみたものの、そんな場所、俺とは縁遠くて、無理だった。  校門のとこで瑞希から渡された実家のパン屋オープンのチラシ。  元クラスメイトとして行くくらい、何もおかしくないだろう、瑞希はどんな所で、どんな両親の元で育ったんだろう。気になって、気がつくと足はパン屋の方へ向かってた。  こぢんまりした可愛いパン屋の前には、小ぶりな鉢に植えてある花が、たくさん飾ってあった。オープンの祝いで知り合いが持ち寄ったものもあるのかもしれない。リボンがつけられてる鉢もあったから。  あぁ、瑞希同様、人に囲まれた温かいご両親なんだろうな。ここで一度入るのを躊躇した。  そうしたら、ひなたと名乗る瑞希の妹らしい子が話しかけてきた。  無理だ。俺が入っていい空間じゃない。カタギと余計に関わるなと親父に言われてるような俺が居ていい場所じゃない。  瑞希の妹には可哀想だが、何も返事をせずに駅の方へ逃げた。普通に早歩きしてるように見えただろうけど、あれは『逃げ』たんだ。  あそこで瑞希に会ってたら、また違ったかもしれない。  歩く速度は次第に速くなり、駅まで走った。忘れよう、忘れなきゃ、引き摺るな、生きる世界が違う。  眩しい笑顔の瑞希は、日の当たる場所に生きている。 −−−−−−−−−  オーブンが焼けましたよという音楽を鳴らし、騒がしかった双子も、大人しく座った。  座るまでは三人いる大人に代わる代わる、持ち上げて振り回してほしいだの、馬になってだの、体を使った遊びばかりせがんでくるので、そろそろ体力の限界を感じてた頃だった。 「りょーいちお兄ちゃんも早く座って!」 「兄ちゃん俺の隣座ってもいいぞ」 「ずるい!日向の隣でいいよ」 「はっはっはっ、遼一くんすっかり双子に好かれたな。二人とも、真ん中に来てもらえばいいだろ」  店内唯一のイートインスペースらしきそのテーブルの片側で双子が待ってる。  多分、両サイド二人ずつしか座らないだろうテープルなのに、無理やり俺に真ん中に座れと椅子を持ってきた。  座ってみると、ギューギューに双子がくっついてくる。  体を動かして遊んでた子供の体温は温かなものだった。 「お待たせ〜」  焼き上がったパンと、バターやジャムの乗った小皿、それに飲み物をトレイに乗せて瑞希が運んできてくれた。

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