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第2話
「コンバンワ」
「……どうも、モモさん」
寂しさが募っていた千里は内心彼の訪問に救われた。不気味な雰囲気でも彼は悪意ある人ではない。少し会話出来るだけでも心が回復するのを感じた。
「今日はどうしたんですか」
「お前とサクヤ、コウビした?」
「こっ……」
物言いに赤くなるとモモはニッコリ笑って頷いた。
「はじめて、あげた。いいこと」
「は、はあ」
「今日のモモ、お前にジイ教える」
「えっ。いや、それくらいはさすがに」
「チンコちがう。アナのジイ」
直接的な言葉にたじろぐ。モモはずんずんと部屋に入ると、サクヤが漁っていた引き出しを迷いなく開けた。アダルティなラインナップからひとつ小ぶりなものを取り出して千里の前に掲げる。
「サクヤ、コダワリ強い。自分でカイハツするのが好き」
「そう、なんですね」
「お前みたいなの、トクに好き。だからお前、あまり目覚めるのいけない」
要するにサクヤと行為をする以外はあまり触るなということだろうか。
「オレあんまり普段……しないんで、大丈夫だと思いますけど」
「でもお前は一人。サクヤのカラダ知った。やることないとき欲しくなるのはキモチイイこと」
「……」
ないと否定できないのがつらい。
「ニンゲン、一度知ると戻れない。キンシはムダ。だからチョウドのやりかた教える」
モモがベッドを指さした。拒否権はないらしい。
その夜はサクヤとの一夜とは違った意味で心臓に負担がかかった。必死で作法を理解したことをアピールするとモモは満足げに帰っていった。
*
『これから向かうね』
通知に既読だけつけてベッドに寝転がる。出迎える準備はすでに万全だ。サクヤのことを心待ちにしているみたいだと考えて千里はげんなりした。監禁相手に情が湧くのは不健康な状態だ。
落ち着かずなにも手につかない。カーテンを少し開けて外を覗くと細い三日月が浮かんでいた。ここに来てからまだ二週間も経っていないがずいぶん外の世界が懐かしく思える。友人たちは連絡がつかなくなって心配していないだろうか。決して多くはないがたまに遊ぶ仲だし、バイト先だって今頃迷惑しているに違いない。家賃はどうしよう。捜索願が出されたりするのだろうか。
とりとめないことをぐるぐると考えているうちにオートロックが解除される音がした。緊張してベッドに正座すると、ゆっくりドアが開いてサクヤが現れた。
「……」
いつものにこやかさはなく、疲れているのか表情が死んでいる。イケメンが無表情だと怖いんだななどと気を紛らわせた。
彼はあいさつもなく上着を脱ぎ捨てると一直線に千里の元へ歩いてきた。そのままの勢いで肩を掴まれ押し倒されたので千里は恐怖で呻き声を上げた。怖すぎる。先日の優しさはどこへ行ってしまったのか。
「ひぇ、サクヤさ、」
強く抱き締められて千里は二の句を継げなくなった。深いため息が耳の横で聞こえた。
「……」
サクヤはしばらく無言で千里に抱きついたまま動かなくなった。必然的に千里も動けない。かろうじて左手が自由だ。千里は迷ってから、恐る恐るサクヤの背をぽんぽんと宥めるように叩いてみた。微かに身じろいだので、覚悟を決めて頭に手を伸ばす。サラサラとした茶髪をそっと撫でるとサクヤは千里の肩に擦り寄った。
「……ちさとく~~~ん……」
声に覇気は全くない。今にも泣きそうだ。
「だ……大丈夫ですか?」
「ぜんぜんだいじょばない……むり……」
「なにかあったんですか」
「オッサンやだよぉ……キモイよぉ……なんであんな息をするようにセクハラしてくんの……俺は歳上には全く興味ないんだよ……」
「……ああ……」
サクヤはそういう人種に好かれやすい顔なのかもしれない。あまりにも痛々しい愚痴を聞きながら千里は心から彼を憐れんだ。立場云々は置いておいて今のサクヤには慰めが必要だ。
「五日も頑張ったんですね」
「そう……俺何度も手が出かけたけどさ……耐えたんだよ……」
「それはえらいですね」
「もっとほめて」
「えらいですサクヤさん」
「ちさとくん優しいなぁ……」
千里はだんだん慣れてきてサクヤを抱きとめながら何度も撫でた。こうしている彼は無害だ。大人の男二人が抱き合って傷を慰めている絵面は頂けないが幸い見ているものはいない。
「お疲れ様ですサクヤさん」
「癒し……心が回復していく音がするよ」
「それは、よかったです」
「若い柔肌最高だね、あったかい」
「うぇっ」
サクヤが首筋にキスをしたので千里はびくりと跳ねた。まだそっちには行かないと思って油断していた。
「ふふ、俺のかわいいちさとくん」
「ん、ちょ、ちょっと待って」
「五日も空けてごめんね。さびしかった?」
「そ、そうでも」
「えー、俺のこと待っててくれなかったの」
「待ってない、わけでは」
サクヤの舌にくすぐられて肌が粟立つ。だんだん先日の記憶がよみがえってきて、千里はぞくりとこのあとの行為に意識を引っ張られた。快楽に溺れて散々声を出してしまったことを思い出し死ぬほど恥ずかしくなる。
「は……っ、サクヤ、さ」
「まだキスだけなのにかわいいね」
「うぅ」
「今日は深いキス、してみようか」
「え……」
サクヤの顔が目の前に来る。固まってしまった千里を彼は優しい目で見つめた。
「彼女いたことあるんだっけ? どこまでしたの」
「……キス、まで……」
「え、じゃあ童貞?」
「ぐ……」
「上手くいかなかったの?」
「……っ、せ……性欲なくて、飽きたって」
「あっは」
「笑わないでください!」
「ごめーん。俺はいいと思うよ、ちさとくんが気持ちいいことに慣れてないの」
サクヤの手が千里の頬を包んだ。整った顔にじっと見つめられると勝手に顔が熱くなってしまう。サクヤは微笑むと長い睫毛を伏せて千里に口づけた。
「……っ」
初めてではないが、彼女とのキスは触れるだけのものを一度きりだ。二度目の接吻が監禁された男となんて誰が予想できただろう。静かにサクヤの唇が離れ、千里は止めていた息を吐き出した。
「鼻で息するんだよ?」
「わ、わかってますけど……っ」
「かわいい」
「ん、むっ」
サクヤは今度は舌を入れてきた。ぬるりと口内を撫でられ、擽るように舌同士を絡める。
「ふ、んん」
「は……ほら、お口開けて」
「んぁ、んっ」
酸欠になりそうだ。キスとはこんなに気持ちいいものだったのか。脳に響く快感が視界を潤ませていく。千里はよく分からない切なさを覚えてサクヤの腕に縋った。
「は、ふ」
舌先を唾液が繋ぐ。すでに肩で息をする千里を見下ろしてサクヤはくすりと笑った。その瞳には興奮の色が滲んでいた。
「ほんとかわいいねちさとくん」
「うう、やめてください」
「キスで興奮してくれたみたい」
「ふ、ぇ」
言われて目線を落とすと、緩く立ち上がった千里の性器がシャツを持ち上げていた。一気に羞恥で体温が上がった。
「み、みないで」
「今さら。いいんだよもっと感じてくれて」
プチプチとシャツを脱がせながらサクヤが笑う。袖は抜かず前をはだけさせて、サクヤは手を胸に滑らせた。
「もういっかいキスしよ」
「あ、ぅ」
返事も出来ないまま再びぱくりと口を覆われる。舌の愛撫を必死に受け入れているとサクヤの手がやわく乳首を触りはじめた。
「んっ、ふぅ、んむっ」
くりくりと突起を捏ね回され、変な気分になってくる。気持ちいいとはいかないがなにかモヤモヤしたものが腹部に溜まる感覚がした。
「んは、ぁっ、サク、ン♡」
この鼻にかかった声を自分が出しているのか。痺れた頭では歯止めが効かない。だんだんと乳首が疼いてきて、突起をサクヤが摘むたびに腰が揺れた。
「は、はぁ……っ」
「やっぱり感度いいねちさとくん。ほら、ココ濡れちゃってる」
「あ、さわ、っくぅ♡」
先走りの垂れていた性器を握られ、強い刺激に千里は悶えた。ちゅくちゅくといやらしい音をさせて扱かれ意識がそこに集中してしまう。
「乳首気持ちよかった?」
「あは、ぁッ」
「それともキスがお気に入り?」
「だめ、それ以上っ、あぁっ」
「両方好きかなーちさとくんは」
「イく、もうイっちゃうからッ」
「いいよ、かわいいイキ顔見せて」
サクヤが搾り取るように手を動かし、それにあえなく負け千里は背をしならせて達した。何回かに分けて飛んだ精液がタトゥーを白く飾った。
「は……は……っ」
「気持ちよかったねちさとくん」
「……はい……」
「俺が来るまでにおしりいじったかい?」
「え、ぁ、してない、です……モモさんに、少し教えてもらいましたけど」
「欲しいって思わなかった?」
「あ、あんまり……やっぱり、怖いので」
千里の返答にサクヤは笑みを深めた。
「いいねぇちさとくん。ほんと俺好みのかわいい子だな」
機嫌が良さそうにローションを用意するサクヤを千里は恐々として見つめた。今日もまた犯されてしまうと思うと逃げ出したくなる。感覚は嫌いとまではいかなかったが快感が強すぎて怖いのだアレは。
「……自分で解してみる?」
「えっ」
千里の視線をどう取ったのかサクヤはそんなことを言い出した。まあ確かに、自分で触ったほうが恐怖はなさそうだがこれはつまりサクヤの目の前であられもない行為をするという事だ。それはそれで抵抗がある。
「俺見たいな、ちさとくんが自分でおしりいじるの」
「な、いや、です」
「俺癒しが欲しいんだよ。こんなささくれだった心じゃ、ちさとくんのこと酷くしちゃうかも」
「は……」
軽く言うがこれは脅しだ。選択の余地などないではないか。サクヤは面白そうに口角を上げるとローションボトルをこちらに差し出した。
「……っ!」
「触りかたモモに習ったんでしょ? やってみせて」
「ひ……ひどい……」
「ふふ、しつけもちゃんとしなきゃね」
千里が躊躇っていると次第にサクヤの目が冷たくなってきた。彼が柔和なうちに従った方がいいと本能が告げて、千里は震える手でボトルを受け取った。
「こっちに足広げてね」
「っ、はい……」
真っ赤になりながらサクヤに向けて股を開く。じっくりと眺められ千里は顔を上げられなくなってしまった。
せめて早く終わらせよう。千里はローションを指に絡ませ、中指を後孔に押し当てた。
「っ……」
つぷりと挿し込み、たどたどしく中を擦る。あまり気持ちよくはない。見られている緊張も相まって感覚が鈍い気がした。こんな状態で解すことなどできるだろうか。
「ぅ……ん」
「悦くなさそう」
「な……慣れて、ないので」
「もっと奥いじってごらん?」
「あぅ……っ」
言われた通り指を届く限界まで挿入する。働かない頭でサクヤに触れられた箇所を探すが、どうにも上手くいかない。快感を得られずとも時間をかければ解れてはくるだろうが、このまま後孔を弄り続けるのは苦痛でしかない。
「は、う」
「気持ちよくなれないねぇ」
「っ、ごめ、なさ」
「別に悪くはないよ」
「んぇ」
不意にサクヤが近づいて千里の太腿を撫でた。輪郭をなぞるように手を滑らせ、脚の付け根を通って脇腹へ登る。
「続けて?」
「ぁ、はい……っ」
「あんなに気持ちよくなれてたんだから大丈夫、ゆっくり探してごらん」
サクヤが千里の全身を愛撫していく。慰められながら必死に指を動かすうちにだんだんと微かな快感を拾うようになってきた。跳ねるような強さはないが不快さがなくなっていく。
「ふ……あ、は」
「その調子、いい子だね」
「んん」
キスされながら指を増やし、無意識に腰を揺らす。性器を触って欲しい気持ちが湧いてきたがサクヤはただ撫でては軽くキスをするだけだ。自分で触ってしまおうと空いた片手を浮かせたがすぐにサクヤに掴まれてしまった。
「は、あっ、サクヤ、さ」
「んー?」
「うしろだけじゃ、オレっ」
「そんなことないよ」
「だって、きもちよく、なくて」
「つらい?」
「つらい、です……っ」
「俺が触ったときはあんなに悦んでたじゃない」
「ん、じぶんじゃ、だめで……」
「俺じゃないと気持ちよくなれないんだ」
素直に返事をしようとして千里は思いとどまった。とてつもなく恥ずかしいことを言わされそうになったのではないか。サクヤを凝視すると彼は意地悪な笑みを浮かべた。
「サクヤさん……っ!」
「あはは、残念」
言い返そうと開いた口に舌が入り込み、撫でるだけだった手が乳首を捏ね回した。
「んぅ!? ふ、ンン♡」
「ん、ほら、手止まってるよ」
「あぁっ、まって、ぅあっ」
急に刺激が強すぎる。自分で自分の指を締めつけ、千里は思考を蕩けさせた。サクヤに舌を吸われ、乳首はじくじくと疼きだす。
「ちゃんと解して?」
「ぁふ、ぁ♡」
夢中で指を抜き差しする。上の愛撫が気持ちいいのか後孔が気持ちいいのかよく分からない。色んな場所を責められて千里の脳裏に火花が弾けた。
「ぁ、あァ♡ も、やめっ♡」
なにかがせり上がってくると同時に切なさが押し寄せた。滲んだ視界でサクヤを見上げ、千里はぞくぞくと身を震わせた。色に染まった獣の瞳が千里を凝視している。
目が離せない、と思ったところで乳首がきゅうと引っ張られ、千里は悲鳴のような声を上げて仰け反った。腸内がうねって指をしゃぶるようにはくはくと収縮した。達してしまったかと感じたが性器は透明な液を垂らすだけ。
「軽くイきかけた? えっちだね」
「ん、ぁ……ッ♡ うぅ♡」
サクヤに指を引き抜かれ、そこをじっと眺められる。とんでもなく恥ずかしい。だが千里の羞恥をよそに彼は親指で穴を広げ嬉しそうに笑った。
「やめ、やめてくださいっ」
「いい具合に蕩けたね。じゃあお待ちかねのモノを挿れてあげよう」
「待ってないです!」
「素直じゃないなぁ」
ゴムの袋を口で開けてサクヤが意地悪な顔をする。全てが様になっていて千里は敗北を感じた。この世は不公平だ。
いつの間にか零れていた涙を手の甲で拭う。少し休憩したいという願いも虚しく千里の両足が掴まれた。大きく股を開いた体勢に、サクヤがずいと顔を近づける。
「今日はかわいい顔が見れるね?」
「……っ!!」
嫌だ、と言う前に熱量が千里の身体を穿った。
「あ、ああぁぁッ♡」
「いい声」
「ひぁ、だ、めぇっ♡」
「駄目じゃないでしょ、ちゃんと飲み込んで」
サクヤに腰を持ち上げられ遠慮なしに侵入される。快感と衝撃に支配されてなにも考えられない。体位が前回と違うのもあって対処が分からず、千里はただ生理的な涙を流して悲鳴を漏らした。
「やぁっ、ふかい、くるしっ♡」
「あらら、泣いちゃった。生娘みたい」
「サクヤさ、サク、ヤさんッ」
「なぁにちさとくん」
「こわい、ぬいてぇっ」
「怖くないよ、ほら、俺に抱きついていいから」
サクヤに導かれ首に腕を回す。抱き合うように身体を密着させると切なくてたまらなかった心が少し落ち着いた。
「動くね」
「あッ♡」
サクヤが中を擦り上げるごとに千里の意識が明滅した。落ちるときの浮遊感に似たものが怖い。千里が必死にしがみつくと耳元でサクヤが息を吐くように笑った。
「ぅあ♡ あぁっ♡ あ゛ッ♡」
「甘えんぼだねちさとくん」
「だっ、だって♡ あっ♡ こわっ、いッ♡」
「気持ちよくないの?」
「きもち、いい♡ よくてぇ、こわいぃ♡」
「は……まっさらだなぁ」
もはや自分が何を喋っているかも認識できない。サクヤに揺さぶられ男の尊厳なんてものは粉々に砕けた。抱かれて弱々しく啼く千里はどう見ても雌というやつだ。
「サクヤ、さぁっ♡」
「いいね、もっと呼んで、俺のこと」
「ひんッ♡ だめ、もうだめ、サクヤさんっ♡ オレくるし、しんじゃうっ♡」
「イキそう?」
「なか、きゅんって、なってる♡ なにかくるのッ♡ きもちいのくるッ♡」
「……はは」
「ぅんん♡」
サクヤが千里の口を塞いだ。舌が絡み合う感覚と、激しい律動と、いやらしい水音が、千里を呑み込んで自由がきかなくなる。内腿が痙攣して限界を知らせた。
「ん♡ んぅ♡ んぁ~~~っ♡」
バチリと視界が弾けた。深い絶頂の感覚に身体がバラバラになってしまいそうで、力の限りサクヤに縋った。形がはっきりわかるくらいサクヤの性器を締めつけて、千里は大きすぎる快楽に溺れた。
「…………ッ♡ ぅ…………っ♡」
「は……っ、そんなに悦かった?」
「ぁ…………♡ サクヤ、さ……ッ」
無意識に両手でサクヤを求めてしまってから千里は微かに理性を取り戻した。だが手を引っ込める前にそれを拾われ、サクヤが自分の頬に触れさせる。
「俺のこと好きになっちゃった?」
「……っ、ち、ちがい、ます」
「それは悲しいな」
「う……っ、そうじゃ、なくて……きっ、きらいでは、ないので」
回らない頭で喋るのはよくない。
「もう一回しようかな」
サクヤの性器はまだ千里の中に入ったまま。
「は、待って、だめっ」
「待たない」
「もうだめっ、あ゛ぁッ♡」
散々蕩けた身体を再び快楽が襲う。
第二ラウンドで暴力と言える程の快感を与えられた千里は体力の限界を迎えて今回もベッドに沈んだ。
*
「……」
千里はベッドに丸まって、大きなクマのぬいぐるみを抱いてため息をついた。
このぬいぐるみは千里があまりの孤独感に恥を捨てて頼んだものだ。何かを抱いていないと寂しくて情緒不安定になりそうだった。原因はあの一夜だ。人肌の心地良さを知ってしまえば千里が依存するのも必然だろう。
「二十歳過ぎてシャツ一枚でぬいぐるみ抱いてるやつをどう思う……?」
クマはタオル生地で無駄に手触りがいい。
「オレが……壊れていく……」
サクヤに嫌悪感は不思議と抱いたことがないが、好きかと言われるとなんとも言えない。だって千里を監禁して犯してくる怖い男だ。でも今の気持ちはどうだろう。『七日後に行くね』と送られた素っ気ないメッセージが悲しくて、早く会いたいと焦がれている。教えることがなくなったのかモモも来ていない。ぬいぐるみは喋らない。外の音も聞こえず、ゲームもやる気になれず、このままでは寂しくて死んでしまうのではなかろうか。
「オレこんなに弱かったかな」
高校を卒業してからずっと一人暮らしで、実家にしても家族の暖かみはそれほどなかった。一人が普通だったのだ千里は。友達も誘われなければ遊ばなかったし彼女を渇望したことも無い。
「……優しいのが悪いよなやっぱ……」
微笑んで撫でてくれて、全部優しく蕩かしてくれるサクヤ。あんな触れかたをされたことなどなかった。関係は不健全そのものだが、千里はペットといいながら最大限尊重されている。
千里はまたため息をついてぬいぐるみを撫でた。胸がしくしくと痛む。
「早く来ないかなサクヤさん……」
毒されたなと自覚することはまだできた。
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