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第5話
「サイキン、サクヤ楽しそう」
「そう、なんですか」
「お前のおかげ。でかした」
千里はモモに身体を手入れされながら曖昧に返事をした。彼も芸達者だ。はじめの衝撃が強かったからか、モモに裸を見られたり触られたりするのには抵抗がなくなった。医者に向ける感情に近いだろうか。
「オレの前にもペットがいたんですよね?」
「いた。でもケッコウ前にオサラバ」
「お……おさらばって」
「アイツ、調子乗った。サクヤの好みとチガウ、だからクビ」
モモがニイと笑った。
「お前はクスリ漬けならないといいネ」
「ひえ……」
つい最近そういった話をサクヤとしたばかりだ。これからはできる限り従順に振舞った方が良さそうだ。
「でもお前、イイヤツ。モモ気に入った」
「ありがとうございます……」
「コウタも気になる言ってた」
「コウタ……誰ですか?」
「ソウジセンタク、ゴミとオトドケモノ」
つまり千里が生活するのに不可欠な人だ。室内の掃除は死ぬほど暇なので千里がやっているが、出たゴミや洗濯物は専用のボックスに入れるだけで終わり、直ぐに新しいものが届いた。
「いつもお世話になってますとお伝えください……」
「わかった。終わり」
磨かれた身体を見下ろす。痛みのなくなったタトゥーがやはり目立った。
「増やすか?」
「と、とんでもない」
二度とあんな痛い思いはしたくないものだ。隠すようにシャツを着るとモモは可笑しそうに笑った。
「ア、ちょうどだ」
「はい?」
出ていこうとドアを開けたモモが声を上げる。彼の影で誰かが動いて、ドアの隙間からひょこりと顔を出した。
「……ども」
長身のモモよりさらに高い位置に顔がある。モモに招き入れられ遠慮がちに佇んだ姿はがっしりしていて線の細いサクヤとは対照的だ。明るい金髪と図体でびびった千里は、その顔が案外幼いことに気づいた。
「ええと、コウタ、さん?」
「別に呼び捨てでいいスよ、年下だと思うんで」
「コウタ十七、お前二十一。ネンコウジョレツか?」
「じゅうなな!?」
未成年には手を出さないとか言っていなかったか。
「え、二十一スか? いっこ上ぐらいかと」
「成人済みです……」
「へえ……これがサクヤさん溺愛の……」
はるか上方から眺められてたじろぐ。生脚なのが申し訳なくなった。
「あ、あの、いつもありがとうございます」
「……いや、それが仕事なんで」
なにかと役立ちそうな出で立ちだがどうして掃除係なのだろう。未成年だからということか。
「じゃ、失礼します」
「サヨナラ」
「は、はい」
頭を下げるとバタンと扉がしまった。千里は久しぶりにサクヤ以外と会話をしたことに充足感を覚えた。
「ああ、コウタに会ったの?」
「はい。背が高いですね」
「でかいよねぇ。成人してりゃ引き連れたんだけどさ」
三日後に来たサクヤは千里の話を聞いてへらへらと笑った。
「ああ見えて細やかな仕事ができるんだ」
サクヤの囲う人材は皆芸達者らしい。あの逞しい腕でシャツのアイロンがけをしているのを想像していると、サクヤに肩を掴まれ押し倒された。
「ほら他の男のことなんか考えてないで、俺だけ見て?」
「っ……は、い」
言い方が良くない。熱い頬にキスされて千里は小さく呻いた。
「今日はどうしようかな。おしりで気持ちよくなれて、メスイキもできたからー」
サクヤが楽しそうに千里の太腿を撫でる。縮こまっていると、彼の手がシャツの上から肉のない胸を揉んだ。
「ココの開発しよっか」
「……、もう割と、感じてると思うんですけど」
なんなら今の動作だけでぞわりとしている。行為のたびに弄られたので身体が関連付けて覚えてしまった節があった。
「ちさとくん飲み込みが早いからね」
「ん、ぁ」
布越しに突起をなぞられると変な感覚だ。すりすりと擦られ腹の奥が切なくなる。
「でも、もっと気持ちよくなれるんだよ」
「ふ、もっ、と?」
「そう、乳首だけでイけるくらい」
「え、んっ、それは、こわいです……っ」
すりすり、カリカリと突起が弄ばれる。腰に響く快感は未だ慣れなくてもどかしい。
「くふ、ぅあ、あ……ッ」
腰がひとりでにくねる。じっとしていられなくて千里は頭を振って悶えた。下腹部が切ない。布の上から触れられると甘い痺れが背筋を駆け抜けて、もっと強請るように胸を突き出してしまう。
「さ、さくや、さっ」
「うん、気持ちよさそう」
「とっ、とめて、いっかいとめてくださいッ」
「どうして?」
「うぅ……っ、くるし、へん」
上手く言い表せない。はっきりした快感にならないまま腰に溜まっていく感覚がする。乳首もピリピリとして気持ちいいのか痛いのか分からない。
荒い息で訴えるとサクヤは意外とあっさり手を止めた。ひくひくと震えながら身を投げ出しているうちにローションの蓋を開ける音が聞こえた。
「あ、ぅ……?」
プチプチとシャツのボタンを外されていく。あらわになった自分の胸に千里は少し驚いた。弄くり回された乳首はピンと立って存在をこれでもかと主張していた。
「かわいいね」
「ひ、あぁッ」
直接突起を摘まれて千里は悲鳴とともに跳ねた。感度がいつもの比ではない。枕に頭を押しつけて放心していると右胸にぬるりとした感触がした。
「え、っあ、あぁ」
ローションをまとった指がにゅるにゅると突起を撫で回している。滑りの良くなった指に突起を擦られ扱かれると得体の知れないものがせり上がって声に変わった。
「ふぁ、あ、あっ、あ♡」
「いいね、もっとかわいい声出してごらん」
「はぁ……ッ♡ まって、ぇ♡」
違う、こんな媚びた声など出したくない。意思に反して漏れでる嬌声に千里は焦った。サクヤはニヤつきながらこちらを見下ろしている。
「だめ♡ だめぇ♡」
「だめじゃないでしょ、正直に言って?」
「んぁあ♡ き、きもちい、です♡」
「どんなふうに?」
「どん、なッ♡ じんじん、してる♡ お、おくがぁ♡ くるし、くて♡」
「どこの奥?」
「うぅ♡ お、おなか……ッ♡」
「ふふ、かわいい」
どんどん理性が削られていく。乳首が弄られているという認識しかできなくなっていく。もうこれだけで精一杯だったのに、次の瞬間千里は皺がよるほどシーツを握りしめて悲鳴を上げた。
「うああぁッ♡」
サクヤの舌が左胸に這って突起を舐っている。右胸は弄ったまま、左乳首も巧みな舌使いで責め立ててきた。
「だめ♡ そんなに、たえられないぃ♡」
「いけるいける」
「あ~っ♡ よすぎるの、だめ、だめッ♡」
視界がチカチカした。腰が重くて、勝手に揺れる。あまりに切なくて膝を合わせようとしたが間にはサクヤの身体がある。だが我慢できず千里は腿をサクヤに擦りつけて悶えた。遠慮などする余裕がなくてサクヤの頭を掴むが力が入らない。
「おねが、とめてぇ♡ しんじゃうッ♡」
「は、そのわりに押しつけてるじゃない」
断じて違う。身体が強ばって胸が反ってしまうだけだ。
「さくやさんッ♡ おねがい、もうやめて♡」
「乳首でイくまでやろうと思ったのに」
「もうむり、せつなくてッ♡」
「どこがどうなってるって?」
サクヤが楽しそうに聞く。千里はもう何も考えられずに訴えた。まだ手は止まっていない。
「おなか♡ きゅんて、してて……ッ♡」
「それが苦しいの?」
「くるしい、たすけて……っ♡」
「……はは、どうしたらいいかな?」
「う、ぅ♡ なか、なかいっぱいに、して♡」
おかしくなりそうだ。自分が何を口走っているかもわからない。
「もう一声。俺に何してほしいのちさとくん」
「あぅぅ♡ い、……いれて、挿れてくださいッ♡ おくまで、いっぱいに……ッ♡」
ぴん、と乳首を弾いてサクヤが責めを止めた。不規則に痙攣しながらぼうっとしていると、突如後孔に指が侵入した。
「んぁッ♡」
疼いていたそこを指が掻き回す。いつもより手荒な解し方に髪を振り乱して悶えているうちにずくりと下腹部が重くなった。
「ふ、ぅん、あ……ッ♡」
きゅうと指を締めつける。達してしまったらしい。物足りないまま絶頂に浸っている千里の脚ががばりと持ち上げられた。
「ぁ、サクヤ、さ」
「うまくお誘いできたね?」
「おさ? ッあ」
ズン、と熱量と衝撃が千里を襲った。
「あ゛ッ!?♡」
欲していた位置にサクヤの昂りが既に届いている。意識を持っていかれそうな快楽の波に千里は溺れた。
「ひ、あぁ♡ あッ♡ あ──ッ♡」
「んふ、いい声で啼くね」
「い、あ~~~ッ♡ さく、ぅうあッ♡」
苦しい、気持ちいい。ぐちゃぐちゃになった頭の端でまた達したのを感じた。このままでは壊れてしまいそうだ。
強すぎる快楽が怖くて千里は必死にサクヤへ手を伸ばした。シーツでは駄目だ、彼に縋らないと恐怖を紛らわせない。
「今日も、甘えんぼだね」
「あ♡ あ♡ さくやさん、さくやさんッ♡」
「ずっとイってる、ナカとろとろだ」
サクヤが少し苦しそうに千里の髪を梳いた。
「くる、ひ♡ も、だめ、さくや、さ♡」
「ん……もうちょっと、がんばって」
勝手に腸壁がサクヤを締めつけて、それで自滅している。腹の奥の方がきゅうきゅうと悦んで、いつまでも絶頂を呼んだ。全身が蕩けて前後もわからない。気持ちいい、サクヤの熱がたまらなく嬉しい。
「は……ちさとくん」
「ッ♡ あ、あぁぁ♡」
囁きにぶるりと震える。サクヤが息を詰まらせて、千里は中に熱いものが注がれる感覚に困惑して嬌声を上げた。
「……ふ、搾り取られちゃった」
「あ、ぅ……ッ?」
「少しは淫魔じみてきたんじゃない?」
サクヤが千里の下腹部、タトゥーを撫でて笑った。
「ぇ……っ? なか、に……?」
「ゴムつける余裕なかった、ごめんね」
「……ッ」
なぜだか分からないがとんでもなく恥ずかしくなった。この腹の中にサクヤの精が注がれたという事実に喜ぶ気持ちが芽生えてしまったからだ。
「あとで掻き出してあげるから」
「は……い……」
サクヤのキスに目を閉じると意識が遠のく。この体力の無さには困ったものだ。毎度寝落ちしている気がする。
「オレ……ま、だ」
「うん?」
うとうとする千里に追い討ちをかけるようにサクヤが愛撫する。
千里は抗えず悔しい思いで眠りに落ちた。
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