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好きだから、アナタのために16
「マスターってば、心を許した相手には、子どもみたいに甘えたになっちゃう人だったのかしらねぇ」
「甘えたって、なんですかそれ……」
なんとも言えないたとえ話に、返答が困ってしまう。
「甘えたついでに、聖哉くんに途方もないワガママを言って、嫌われちゃったんでしょ?」
微妙なことを突きつけられたせいで、浮かべていた営業スマイルが、思いっきり崩れてしまった。
「あらやだ、当たっちゃったみたい」
華代さんがカラカラ大きな声で笑うと、絵里さんが得意げな顔をした。
「ハナ、あまりマスターを虐めちゃダメだって。聖哉くんがいなくて、日々ブロークンハートなんだから」
ね? なんていいながら、絵里さんにウインクされてしまった。
「ブロークンハート……。確かに、心にヒビが入ってるかもです」
俺としては、聖哉に店の借金について心配かけたくなくて、結果的にあんな物言いになってしまった。多額の借金を危惧するのは、恋人として当然のことなのに、あのときはその余裕すらなかった。
「アイツを傷つけるつもりは、全然なかったのに……」
「ちゃんと今みたいに、自分の気持ちを伝えないと、聖哉くんはここに戻ってこないと思う」
「私が代わりに、連絡してあげようか?」
絵里さんと華代さんが、代わるがわる仲を取り持つ提案をしてくれたが、すべて丁重にお断りする。
「ありがとうございます。これは俺と聖哉の問題なので、自分でなんとかします」
「マスターがそこまで言うなら、私たちは口出ししない。だけど、いつまでもダラダラ時間が流れてしまったら、戻るものも戻らないんだからね」
「華代さん……」
人差し指を鼻先に突きつけられて告げたセリフに、一瞬息が詰まった。
「来月のクリスマスまで、1ヶ月間の期限をつけてあげる。それを過ぎたら、私たちが勝手に動くわ。マスター腹くくって、覚悟しないとダメだからね!」
「絵里さん、わかりました。期限内までに善処します」
ふたりに背中を押された形になったが、これをキッカケにして、聖哉に連絡する決意がかたまったのだった。
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