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好きだから、アナタのために17
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午前一時半過ぎ、レストランから帰宅して、愛用しているピアノの椅子に座り、智之さんから送られてきたアプリのメッセージを読む。
『聖哉、俺が悪かった。あのときは聖哉が店のことを心配する気持ちを否定したんじゃなく、俺が多額の借金をかかえた情けない男に思われるのが嫌だったんだ』
ここまで読んで、一旦目を閉じた。智之さんとやり合ったときのことを思い出すため、心をフラットにする。
「大好きな智之さんを、情けない男になんて思うはずないのに」
この時点ですれ違っているのを残念に思いつつ、ポツリと呟いてから、長文の続きを読みはじめる。
『聖哉のスケジュールがわからないせいで、連絡がとれないことがもどかしい。一度逢って話がしたい。直接謝りたい』
アプリのメッセージ欄に既読のマークがついたことで、僕が謝罪文を読んだのが、智之さんに知られたことになる。
直接逢うことに躊躇してる間に、スマホが着信音を流す。目に留まった画面の表示には智之さんの名前が表示されていて、僕がメッセージを読むまで、彼がずっとスマホをチェックしていたのを知った。
すれ違っている現状に不安を覚えていたけれど、仕方なく通話ボタンを押す。この時間ならきっと、智之さんは自宅に帰る途中だろう。
「もしもし」
『もしもし聖哉、遅くにごめん』
外の雑踏に紛れた中で、久しぶりに聞く智之さんの声。疲れが隠しきれていなくて、いつもより低く耳に聞こえた。
「いえ、大丈夫です」
『元気そうでよかった。レストランでの演奏、だいぶ慣れたのか』
「おかげさまで。今はたまに接客もこなしてます」
『俺の店でも、ちゃんと接客していたもんな』
自分のことをまったく語らない智之さん。まるで、僕への気持ちを隠しているように思えてならない。
「しばらくお店に顔を出していませんが、繁盛してますか?」
『アハハ……ぼちぼちってところかな』
元気のない智之さんの声を聞きながら、お店に置いてるラップトップのピアノを、頭の中に思い描く。僕が弾かなくなって、寂しそうにしているんじゃないかって。
それはピアノだけじゃなく、智之さんも寂しそうにしているのではと――。
「智之さん、僕は」
『うん?』
「どこでピアノを弾いていても、アナタのことを想って音を奏でています」
『そうなんだ……』
「智之さんにプレゼントする気持ちで、ピアノを弾いているんです」
智之さんを嫌っていないことを知ってほしくて、僕の気持ちをまじえた現状を伝えた。
『俺は……それ、嫌だな』
「えっ?」
嫌なんて言葉が出てくるとは思っていなかったせいで、どう返事をしていいのか困った。
『俺はワガママだからさ。そんなふうにピアノを弾く聖哉を』
「わかりました!もうそんな気持ちで、二度とピアノを弾きませんっ」
最後まで智之さんのセリフを聞きたくなかった僕は、思ってもいないことを、怒気を込めて口にしてしまった。
「ワガママな智之さんには、もうついていけません。さようなら!」
怒った勢いで、スマホを切った。自分のことにいっぱいいっぱいで、このあと彼がどんな気持ちになっているのかを考えたくなかった僕は、スマホの電源を落とし、シャワーを浴びるために浴室に向かったのだった。
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