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好きだから、アナタのために18
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カウンター席を陣取った絵里さんと華代さんの視線が、痛いくらいに俺の顔に突き刺さる。
「マスター、クリスマスまであと少しだけど、聖哉くんと話し合いくらいはしたんでしょ?」
華代さんからの問いかけに、唇の端がピキっと引きつった。
「は、話し合いは、きちんとしましたよ。スマホ越しでしたが」
「マスターのキョドってる態度から察するに、うまくいかなかったってわけか。なにを喋ったのやら」
絵里さんは大きなため息をついたあと、タンブラーの中身を一気に空け、コースターの上に音をたててグラスを置く。中に入っている氷が、無機質な音を出した。
「とりあえず聖哉くんと喋った感じは、どうだったの?」
カウンターに頬杖をついた華代さんは、まるで取調室にいる凄腕刑事といったところだった。犯人役の俺は、おどおどしながら素直に答える。
「きっと聖哉なら忙しくしていると思って、元気なのか聞きました」
「うんうん、会話の糸口としては間違っていないわね。いいんじゃない?」
「それがどうして、うまくいかなかったのか。聖哉くん、マスターを怒らせるようなことを言ったの?」
華代さんの視線が、俺から隣にいる絵里さんに移り、ほっとしたのも束の間だった。凄腕刑事の相棒として、絵里さんからさらに鋭い視線を飛ばされた。
きちんと答えないと、厳しい取り調べになるのがイヤでもわかるので、そのときのことを必死に思い出しながら口にする。
「えっとアイツから『どこでピアノを弾いていても、俺を想って音を奏でています』って言われて、反射的にムカついてしまったんです」
自分用に作った酒の入ったグラスを、両手で握りしめて告げた瞬間、絵里さんがカウンターをグーで殴った。その大きな物音に、奥のボックス席にいた客が、ぎょっとした顔で俺たちに視線を注いだ。
「すみません、お騒がせしました」
俺が慌ててボックス席に向かって頭を下げたら、華代さんが「謝ってる場合じゃないでしょ!」なんて、怒気を含んだ口調で告げる。
「ほんとそれ。ムカつくポイントがわからない。普通は喜ぶセリフでしょ」
「聖哉くんは、ここでピアノを弾いてなくても、いつもマスターのことを想ってますって言ったのよ? なんで反射的にムカつくかなぁ」
ふたり揃って口々に文句を言い放ち、俺を睨み倒す。
「だって、嫌なものはイヤだったんです……」
「理解不能! どこがイヤなのよ?」
楽しそうにピアノを弾く聖哉は、凛としていて、とてもかっこいい。それは間違いなく男女問わずに、目を奪われる存在なんだ。
「……ピアノを華麗に弾く聖哉を、誰にも見せたくないというか」
渋々なんとか答えた瞬間、カウンター席にいるふたりが、白い目で俺を見つめる。
「マスターが聖哉くんのことを、とんでもなく大好きなのはわかった」
絵里さんが乾いた口調で言い放った。
「ゾッコン×10じゃ、足りないくらいかしらね」
似たような感じで華代さんも告げて、ふたりはひょいと肩を竦めて顔を見合わせた。
「あ、あのぅ?」
「お互い好き合ってるのに、見事にすれ違っちゃって。マスター、クリスマスイブの日は、午前0時で閉店してね」
「聖哉くんには当日、ムーンナイトに顔を出すように、私から連絡しておく。事前に連絡したら、拒否られるおそれがあるしね。私たちからのクリスマスプレゼントを受け取ってよ」
俺の意見を無視して、華代さんに勝手に閉店時間を決められたり、イブの日に聖哉に逢えることになるかもしれないなんて、そんなの――。
「おふたりには、頭があがりません。ありがとうございます……」
強制的ではあったが、聖哉に逢えるイブの日を、指折り数えて待ちわびたのだった。
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