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好きだから、アナタのために22

「なんとかできないのかと言いたいのはわかるが、こればっかりは無理だ」 「たとえば売れそうな株を、買ってもらえばいいんじゃない?」 「いいアイディアだが、そういうのはしちゃダメって、法律で禁止されているんだ。すみません、内輪で盛りがってしまって」  イケメンに頭を下げられてしまい、逆にこっちが恐縮してしまう。 「謝らないでください。今はここで働いている分だけ、それなりに稼ぎがあります。スカウトしてくれたオーナーがとてもいい方で、今では昼間しているピアノ講師の仕事のほうが、バイトみたいな感じになっているんですよ」  あえて明るく振る舞うと、恐るおそるといった感じで、イケメンが僕に話しかける。 「あの……店の予約について、聞いてもいいですか?」  話の矛先が変わったことにほっとしたが、お店の予約を訊ねられた時点で、心が憂鬱になる。  僕の記憶が確かなら、一年先まで予約が埋まっている。それでも確認しなければと、レジのカウンターの下から分厚いファイルを取り出し、ページをめくって空いている日付を探す。 「ご予約については、来年のクリスマスまで埋まっている状態です」 「ということは、年末は空いているんですね?」 「恭ちゃん?」  イケメンの弾んだ声を聞いた男性は、首を傾げながら隣を見上げた。 「年末の31日については、残り二枠となっております。いかがなさいますか?」 「二人分の予約をお願いします。今日と同じコースメニューで」 「かしこまりました。今日のご予約は、マイスターフェニックス証券様でされておりますね」  今日の日付まで戻って、本日来店しているお客様の情報と、会計時に手渡された優待券で、身元を口にした。 「お客様、申し訳ございません。お手数ですが、住所とお名前の記入をお願いいたします」  カウンターの上に出した予約表に書き込みをお願いすると、イケメンは進んで書いてくれた。 「予約から三日前のキャンセルが50パーセント、前日のキャンセルは80パーセント、当日のキャンセルについては、100パーセントのお支払いをお願いしております」 「わかりました。忘れないように、和臣も覚えておいてくれよな」  書き物を終えたイケメンが促すと、男性は満面の笑みを顔に表しながら頷く。 「それと予約の前金として、五千円をお願いしたいのですが」 「それ、僕が払う!」  男性は元気よく手をあげてアピールすると、イケメンは驚きながら目を丸くした。 「和臣?」 「今年は恭ちゃんの仕事の頑張りで、ここに来られたわけでしょ。来年は僕が頑張って、恭ちゃんを奢りたいんだ」 「わかった。和臣に奢られることにするけど、頑張りすぎて体を壊すなよ」 「おふたりとも、仲が大変よろしいですね」  男性から前金を受け取って、にこやかに話しかけた。イケメンは頬を掻きながら、照れくさそうに口を開く。 「和臣とはパートナーシップ制度で、結婚しているんです」 「そうでしたか。ご結婚されているのなら恋人でいたときよりも、安心して一緒にいられるわけですね」  僕のセリフに男性がイケメンに指を差し、声を荒くして叫ぶ。 「安心なんてしていられません。さっき見たでしょう、恭ちゃんのピアノを弾く姿!」 「ああ、確かに……」  不貞腐れた表情で話に割り込んだ男性を見つつ、フロアのことを思い出しながらイケメンに視線を飛ばした。 「ふたりに肯定されても、俺としてはどうしようもないんだけど……」  弱りきった様子のイケメンとは対照的に、男性はカラカラ笑い飛ばす。 「恭ちゃんは僕にぞっこんだもんね。誰かが誘惑しても、ちゃんと断ってくれるのがわかってるよ」 「そこまでわかってるなら、心配する必要ないだろ」 「相手の気持ちがきちんとわかっていること、すごく羨ましいです」  ほほ笑みながら心の内を吐露した僕に、男性はちょっとだけ考えてから語りかける。 「気持ちは見えないものだから、見ようとしないとわからないんです。僕らは幼なじみでずっと一緒に過ごしてきたけど、自分の想いにいっぱいいっぱいになっちゃうと、すぐに相手の気持ちが見えなくなってしまうんです」  穏やかな表情で、男性がイケメンの右手をぎゅっと握りしめて笑いかけると、彼の隣で小さく頷いて口を開く。 「相手のことを知りたいと思うのなら、まずは自分から飛び込まなければいけないんです。それはとても勇気のいることですが、飛び込んだことが相手に伝われば、必ずリアクションが返ってきます」 「飛び込んでみませんか、恋人さんのために……」  ふたりからの説得に、さっきまで沈み込んでいた気持ちが、少しずつ浮上していくのがわかり、それを言葉にしなきゃと、しっかり顔をあげてふたりに告げる。 「正直なところ、飛び込むことについて、すごく勇気がいります。誤解させたまま、電話を切ってしまったので」  僕のセリフに男性が何度も頷き、空いた手で自分の胸を叩いた。 「誤解させたままなら、なおさらです。勇気が足りないのなら僕の分をあげますし、それでも足りないなら恭ちゃんの分も」 「勝手にやるなよと言いたいところだけど、足りないのなら、いくらでも献上しますよ」  背中を押してくれる優しい言葉の数々に、立ち上がる勇気をもらった気がした。 「ありがとうございます! 早あがりできるか聞いてみて、すぐにでも恋人の店に駆けつけます!」  ふたりに深く一礼したのちに、店の奥にある電話に急ぐ。その後オーナーに許可をもらい、バーに向かうことになったのだった。

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