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好きだから、アナタのために24

「僕は智之さんに、なにをプレゼントしようかな」  コートを脱いで、傍にあるソファの上に置いてからピアノの椅子に座ると、智之さんのぬくもりを感じた。そのことにしあわせを感じつつ、鍵盤を眺めながらポツリと呟く。 「うーん。クリスマスソングは弾き飽きちゃったし、僕らを繋ぐものだったら、きっとこれかな」  ふーっと深い息を吐き、両手を丸めて鍵盤の上にセットする。頭の中に譜面を思い描き、ちょっとだけ息を吸ってから、吐き出す呼吸と一緒に両手指を素早く動かして、流れるように音を奏でる。 「あ、このメロディは――」  弾んだ声をあげた智之さんは、僕の傍にやって来て鍵盤を覗き込む。一度しか聞いていないのに、智之さんが覚えていることに、自然と口角があがった。  力を入れていたコンテストに落ちたせいで、ストリートピアノを使って弾いたときは、この世にある負をみずから背負った思いを込めたせいで、耳障りの悪い音を奏でた。でも今は、とても満たされた気持ちで、ピアノを弾くことができる。  だから当然、曲の印象が違っているはずなのに、智之さんはそれすらも聞き分けているのが、本当にすごい。 「聖哉が弾いてるそれ、なんていうか、よそゆきの聖哉って感じだな」 「よそゆき?」 「俺が街中で聞いたときの感じと今のそれは、まったく違う曲みたいだ。苛立った感じや荒々しさがなくて、上品に装ってるみたいに聞こえる。まるで、聖哉の裏と表みたいだろ」  そのセリフで、思わず手が止まってしまった。 「僕って、そんなに表裏があります?」 「初対面で俺と会話したときは、喧嘩腰だったじゃないか。今と大違い」 「だってそれは――」  智之さんの店でピアノを弾くことになって、たくさんの会話をかわしていくうちに彼の人柄を知り、好きになったから。 「ピアニストの聖哉が出逢いの曲をプレゼントしてくれたからこそ、バーテンダーの俺は美味いカクテルをプレゼントしなきゃな」  そう言って智之さんが指を差したのは、絵里さんと華代さんにプレゼントされた蝶ネクタイだった。 「智之さん?」 「聖哉、こっちに来い」  笑いながら智之さんが誘ってくれたのは、カウンターの中だった。はじめて足を踏み入れたそこから、店内を眺めてみる。 (――ここで智之さんはカクテルを作って、お客様と会話を楽しんでいるんだな)  しげしげと眺めて、はじめて気づいた。ここからピアノがある場所を見るには、ちょっとだけ身を乗り出さないといけないことに。注文されたカクテルを作りつつ、お客様に絡まれていないかなど、僕の様子を見るために身を乗り出して、いちいち確認するのは容易なことじゃない。  そのことに気づけただけで、智之さんに愛されてるっていう想いが伝わってくる。 「聖哉、今日くらいアルコール入りのカクテル、飲んでくれよ」  冷蔵庫からオレンジをふたつ手にした智之さんが頼んできたので、迷うことなく頷いた。甘いものが苦手な僕にとって、柑橘系のカクテルは大好物。きっとアルコールが入っていても、智之さんなら美味しいものを作ってくれるに違いない。  

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