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隣人トラブル(?)
翌朝。
スマホのアラームで目を覚ました十希は、重たい瞼を擦りながら上半身を起こした。
昨日、連れて帰った女の姿はもうない。
サボることも考えたけれど、出席日数が危ないことを思い出してやめた。
適当に支度を済ませ、財布とスマホだけを持って玄関へ向かう。
ドアを開けた瞬間、隣のドアも同時に開いた。
「あ」
咄嗟に出た言葉に、隣人の男は視線をこちらへ向ける。
黒髪にスーツ姿。
朝から隙のない格好をしたところを見ると、仕事へ向かう途中なのだろう。
男は十希の顔を見たあと、そのまま視線を外した。
会話が続く空気ではないけれど、それでも昨日よりは話しかけやすい気がして、十希は軽く口を開く。
その瞬間だった。
男が小さく息を吐く。
何か言われる気がして思わず身を構えた。
「毎晩、丸聞こえですよ」
予想もしていなかった言葉に十希は目を見開く。
昨夜のことだろうか、と考えてはみた。
思い返してみればそれだけじゃなかった。
確かに、静かな生活を送っているとは言えなかった。
男は責めるような口調ではなく、ただ事実を伝えるようにそう言っただけだった。
それが余計に気まずい。
十希は思わず視線を逸らした。
ちょうどその時、エレベーターが到着を知らせる音を鳴らす。
開いた扉の向こうへ先に男が乗り込んだ。
いつもなら適当に階段を使うところだが、今更避けるのも変な気がする。
少しだけ迷った末、十希も後を追った。
エレベーターの中は静かだった。
大人が二人並んでも余裕がある広さなのに、なぜか妙に狭く感じる。
「あの」
この静けさに耐えられなくなり、十希は口を開く。
男の見下ろす視線がやけに痛い気がした。
「なんですか」
「まじですみません」
素直に頭を下げると、男は少しだけ目を細めた。
それから十希の頭の先から足元まで視線を走らせる。
一通り眺めたあと、男はため息をつく。
「まあそういうお年頃ですよね」
「まあ男ですしね。許してください」
半分冗談のつもりだった。
いつもなら大抵の相手は笑うようなことでも、この男は違った。
十希を見たまま小さく眉を寄せる。
「そういう問題じゃないですよ。やるなら静かにして下さい。例えば相手の口押さえるとか」
「ん?」
一瞬、何を言われたのかわからず男の顔を見る。
相変わらず真面目そうな顔をしていて、冗談を言っているようには見えなかった。
しばらくその顔を見つめていた十希は思わず口元を緩める。
「詳しいですね」
「毎晩うるさいですからね」
それはそうだ。
反論の余地もない正論に十希は小さく肩を竦めた。
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