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偶然

その後はそれぞれの講義があったため、話もそこでおわった。 廊下で別れる間際、海星が思い出したように今日の飲みの話を持ち出す。 どうせ暇だろ、と勝手に参加扱いされ十希も特に断る理由もなく頷いた。 そうして気づけば辺りはすっかり暗くなっていた。 駅前の居酒屋は仕事帰りの客で賑わっていて、予約していた席へ案内される頃には全員揃っていた。 海星の友人や、その友人が連れてきた女の子たち。 初対面の顔もちらほら見えたが、十希は気にせず空いていた席へ腰を下ろした。 飲み会なんて慣れたものだ。 最初の一杯が運ばれてくる頃には、店内はすっかり騒がしくなっていた。 「十希くん前も一回会ったことある!」 海星の友人が連れてきた女のひとりがそう言ってきたが、全く覚えていない。 多分ワンナイトの子だろうと適当に相槌を打ちながらグラスを手にした時だった。 ふと視線を上げた先で、見覚えのある黒髪が目に入る。 一瞬、見間違いかと思った。 けれど向こうもこちらに気づいたらしく、目が合ったまま動きを止める。 「あ」 思わず声が漏れた。 同じタイミングで男も小さく目を見開いた後、 「あ」 とだけ返した。 昨日や今朝みたいに話しかけられるわけでもなく、男はすぐに連れの方へ視線を戻してしまう。 十希もそれ以上なにも言えず、とりあえずグラスに口をつけた。 ただ、妙な偶然もあるものだと思う。 しかも席はひとつ後ろ。 背中越しに声が聞こえるくらいには近い。 振り返れば見える距離にいるくせに、わざわざ話しかけるほどの関係でもない。 時間が流れると共に酒もどんどん回ってくる。 こちらの席は騒がしいのに、男の席は妙に落ち着いている。 「いや〜担任持つと大変ですよね」 「今の二年はとくに……」 背中越しに聞こえてきた会話に、十希の手が止まる。 最初は聞き間違いかと思った。 けれど話題はすぐ別の先生へうつり、どうやら聞き間違いではないらしい。 ――担任。 ――先生。 そんな言葉がぽつぽつと聞こえてくる。 十希はグラスへ口をつけながらそっと後ろへ視線を向けた。 男は同僚らしき相手の話を聞きながら頷いている。 教師ならスーツ姿も真面目そうな性格もなんとなく納得出来る。 十希はグラスをテーブルへ置く。 別に話しかける理由なんてないけど。 ないはずなのに、気付けば席を立っていた。 海星たちの声を背中に聞きながら後ろの席へ近付く。 男もすぐに気づいたらしい。 不思議そうな顔でこちらを見上げる。 「教師だったんですか」 男は一瞬だけ瞬きをした。 それから納得したように小さく頷く。 「聞いてたんですか」 「聞こえてたんです」 適当に笑うと、男は呆れたようにため息をついた。

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