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偶然②

「知り合いですか?」 男の隣に座っていたひとりが不思議そうに尋ねる。 十希が答えるより先に男が口を開いた。 「隣人です」 それだけだった。 あまりにも簡潔な説明にその場が一瞬、静かになる。 周りはへえと興味なさそうな返事をした。 十希もなんとなく居心地が悪くなり、自分の席へ戻ろうとした。 「何してんだよ」 不意に頭を軽く叩かれる。 振り返ると、呆れた顔をして海星が立っていた。 「いて」 海星は十希の後ろへ視線を向ける。 つられて振り返ると男と目が合った。 「お前……女に飽きてついイケメンにまで手出そうとしてんのか」 「ちがうって」 そう答えると海星は怪しいと言わんばかりにこちらを見てくる。 一緒に飲んでいた女達もいつの間にか寄ってきていた。 「え、浮気?」 「最低」 「私たち捨てられた?愛感じあったのに?」 好き勝手なことを言いながら笑う声が重なる。 完全に面白がっている。 十希は呆れながら肩をすくめる。 何度も違うと否定をしても、むしろ否定することで余計に盛り上がっている気さえする。 その騒ぎが聞こえていたのか、男の席から小さな笑い声が聞こえた。 「若いっていいですね〜」 「いやほんと」 同僚らしき男たちが笑う。 「結城先生も仲間に入れてもらったらどうです?若いんですし」 「やめてください」 間髪入れず返ってきた声に、場が少し静かになった。 男はグラスを置くと呆れたようにため息をつく。 「本人否定してます」 それだけ言って会話を終わらせてしまう。 十希はそれよりも意外な言葉に思わずその横顔を見た。 男は何事もなかったような顔でグラスに口をつけている。 べつに庇われたわけではない。 ただ、ああいう場面なら一緒になって笑うものだと思っていた。 少なくとも十希の周りにはそういう人間の方が多かった。 「なに見てるの?」 不意に隣から声がして、十希は視線を戻す。 いつの間にか女がすぐ横にまで来ていた。 「べつに」 「嘘」 女は笑いながら十希の手を引く。 そのまま自分たちの席へ連れ戻され、気付けば話題は別のものへ変わっていた。 けれど酒が進んでも騒がしさが増しても、ひとつ席の後ろの存在だけは妙に気になる。 「ねえ、十希くん」 何杯目かもわからなくなった頃、女が肩へ体重を預けてくる。 「今日家行っていい?」 聞き慣れた言葉だった。 いつもなら適当に頷いて終わる。 けれど、今日は違う。 朝、電車の中で決めたことを思い出しながは十希は小さく首を横へ振った。 「今日はいいや」 女がきょとんと目を開く。 「え、珍し」 「確かに」 ただ今日はそういう気分じゃなかった。

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