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1-1 それは突然に…

   そのトビラを開きし者。     全身全霊をもって、彼を守り抜け。   そのトビラが、彼らの運命を分けるだろう。          さぁ…        そのトビラを今… *** 「いらっしゃいませ。」  ずり落ちた眼鏡を上げながら、自動ドアに目を向ける店員。 「こんにちは。ガクちゃん。」手を振りながら店内に入ってくる常連客。 「こんにちは。前田さん。この前のカットはどうでした?」 「もぉ、ばっちり!あなたのおかげで、お友達に大好評だったわ。ありがとう。」 笑顔で、頷きながら受付をしているのは、日置ガク(ひおきがく)。 大好きな美容関係の職に就けたものの、毎日がぱっとしない生活を送っていた。 服装もそれほど派手ではなく、美容師にしては地味な方で、お店に来るお客には『あんた、顔はいいんだから、もっと目立ちなさい!』と、いつも突っ込まれていた。 だが、彼が切るカットは好評で、老若男女問わず彼指名で来る客も少なくはない。 トレードマークの眼鏡は、地味な彼なりのこだわりがあるらしく、毎日違うものをかけている。何本持っているかは自分でも把握し切れていない。 「今日はどうなさいますか。」 ガクは、鏡に映る時計を気にしながら、椅子に座ってカタログを眺めているお客と話をしている。 彼が時計を気にしているのは、そろそろ休憩時間になるからだ。 「ガク。シャンプーマッサージしてる間に、お昼行っちゃいなよ。」 別の接客をしていた同僚の羽鳥大輔(はとりだいすけ)が、肩を叩いてきた。 「ありがとう大輔。前田さん。先にシャンプーしちゃいますね。」 「じゃあその間に、髪型考えとくわね。」 ガクはお辞儀をすると、急いで休憩に入った。 休憩室があるのにそこは素通りして、もう一つ奥の部屋に入る。そこは、たくさんの段ボールやら、カットの練習で使われるウィッグなどが乱雑に積まれている在庫室のようになっている。 ガクはそこに詰まれている段ボールをしばらく眺めた後、その段ボールをおもむろにどかし始めた。しばらくして見えてきたのが、何のためにあるのか分からない、古びたトビラ。 ゆっくりと、トビラの前に立ち今度はそれをしばらく眺めた。 妙な事に、そのトビラの前にいる時だけは、何もかも忘れられた。 ガクは座り込むと、おむすびを頬張り、そのトビラをジッと見つめた。 「いつか絶対に、このトビラを開けてみる。」 お茶を一気に飲み、大きくうなずきながら、固く誓っているのであった。 *** ある日、いつものように在庫室に入り、大きく深呼吸をした。今日も少しかび臭い匂いが鼻を突く。 そして、段ボールを少し片づけ、あのトビラが見える位置に座り込んだ。 おにぎりを一口頬張った瞬間、背中がゾクッとし、身を縮めたが、コンクリート張りの倉庫だからだろうと、あまり気にせずお茶を飲んだ。  ガタン! 突然の物音に、お茶を飲んでいる手が止まった。 ペットボトルをくわえたまま、正面のトビラに視線を向けた。  ガタン!ガタン! 明らかに、トビラの向こうから聞こえてくる音だった。 ガクは立ち上がり、少し後ろに下がった。  ガタ!ガタガタ! 何度も繰り返し音が聞こえてきた。こんな事は、初めてだった。 「な、な……。」 トビラから離れて、様子を伺い辺りを見回していると、ようやく音は止まった。 ずり落ちた眼鏡を直しながら、そっとトビラの方に近づいた。 生唾を飲み込み、トビラのドアノブに手を置いた。  ピピピピッ!ピピピピッ! 心臓が、口から飛び出るほど驚いたガクは、携帯の方に視線を向け大きくため息をついた。 休憩時間終了。 「なんだよぉ。」 あっという間の一時間だった。肩を落とし、段ボールを元の場所に戻すと、その場所を一瞥しながら倉庫の灯りを消した。
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