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第1話
ロシェが小さな頃、彼の父親が無理心中を計り家に火を放った。何とか助けられた彼の顔や体の一部に火傷の痕が残った。
そのせいで村の者は口では可哀想と言いつつも、醜く残る痕に目を背け、彼に触れる事すらしない。
だが、ただ一人だけ。変わり者のドニと、小さな頃から馬鹿にされて生きてきた彼だけは変わらず傍に居てくれた。
こうして生活が出来るのはドニのお掛けであり、彼が居るからこの世界で生きていこうと思えるのだ。
この世界には獣人と人の子が暮らしている。
獣人の雌は少なく、人と交わった場合も獣人が生まれる率は少ない。その為、獣人の数は二割ほどだ。
彼らは人の子よりも優れており、知識や身体能力はもちろん、加えて立派な体格を持ち、特別の存在として崇められている。
だが、ロシェにとって彼らなど、どうでもいい存在であった。
森でたまたま怪我をした獣人であるシリルという少年と、その護衛である立派な体格をした ファブリスをドニが助け、そのお礼にと屋敷に招待される事となった。
面倒な事は避けたい。故にロシェにとってはその誘いは迷惑でしかない。だが、獣人が異常なほどに好きなドニのせいで屋敷へと向かう事になった。
所詮、住む世界の違う者同士なのだ。これで付き合いが終わるだろうと今だけは我慢することにした。
だが、これは切っ掛けに過ぎない。シリルとドニはすっかり仲良くなり、遊びに行くからと屋敷へ付き合う事になってしまった。
この屋敷は危険な森の近くを通らなければならず、ドニに何かあったらと思うとロシェはついていくしかない。
屋敷に着くとドニはシリルの元へと行ってしまうので、ロシェはソファーで昼寝をするくらいしかやることがない。
たまにファブリスが話しかけてくるが、放っておいてほしいので返事をすることはあまりない。
だが、今日はいつものどうでもいい話とは違い、
「ロシェ、手合せをしないか?」
と剣を掲げる。
いちいち自分をじっと見るファブリスの事は好かない。だが、彼の腕には興味がある。
「良いぜ」
「では、庭に」
テラスの前で二人は手合せをすることになった。
「まずは軽く、な」
剣を構えて打ち合い、身体が温まって来た所で、
「本気でこい」
とファブリスの雰囲気が一気にかわり、プレッシャーをかけられる。
「なっ」
ゾクッと背筋が凍る。
怯んだ分だけ隙ができ、剣先が寸前で止まる。
「ロシェ、これが本気だとは言わないよな?」
射抜くように見られ、胸に苦しさを感じる。
「は、当たり前だろう」
強がって剣を構えて向かっていくが、剣を払われて地面へと突き刺さる。
「ほら、こいよ」
相手は体格に恵まれた獣人というだけではない。護衛を任されている事だけあって優れた剣の腕を持つ。
歯が立たないからと、諦めて逃げたくはない。
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