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第3話

 彼は自分と目を合わせない。いつも俯いて話すのが気になっていた。  手合せをし、少し休憩にしようという事になり、いつものように外のテーブルでお茶をしていた。  いつもは水出しのお茶を入れるのだが、果物の蜂蜜漬けがようやく食べごろになったので、それを水の中に入れてだしてやる。天然の氷を洞窟から取ってきて地下の冷保管庫へと閉まってある。それも一緒に水の中へと浮かべた。 「氷に果物。なんだか贅沢だな」  それを一口飲むと驚いた表情を浮かべる。 「これ、甘いな」 「蜂蜜漬けだ。食べ頃になったのでな」  シリルに喜んでもらいたくて作っておいたのだが、今はそれだけではない。 「ロシェは喜んでくれたか?」 「あん? そりゃ。蜂蜜漬けも氷も高価で手が出ないものだからな」 「そうか」  ファブリスが向ける視線には気がついている。あえてこちらを向こうとしないのだ。 「なぁ、君はどうして俯いているんだ?」 「あぁ? 別に良いだろう」 「人と話す時は目と目を合わせるものだ」 「うるせぇよ。醜い火傷の跡を見せないようにしてやっているのに」  気持ちが悪いだろうと、ケロイド状の火傷跡を指さした。  どうしていつも俯いているのか理由がわかった。 「なんだ、それを気にしていたのか」 「なっ、俺が気を使って」   誰かに深く傷つけられるような事を言われたのだろうか。 「そんな気など使う必要はない」  手を伸ばし、火傷の跡に触れようとするが、 「やめろ」  と手を払われてしまう。 「ロシェ」 「触るな」 「俺は、気にしていない」  今度はその箇所へと口づけを落とした。 「なっ」 「この火傷の跡もロシェの一部なのだからな」  そう言った途端に彼の顔が真っ赤に染まり、勢いよく立ちあがった。 「帰る」  まだ食べている途中なのに、屋敷に向かって歩き出した。  シリルが同じことをしたら行儀が悪いと注意するが、ロシェに対しては違った。なんというか、可愛い反応を見せられて、グルグルと喉の奥が鳴る。 「これは、また……」  口を手で覆い、ロシェの後ろ姿を見つめる。  すぐにドニを引きつれて外へと出てきた。その後ろには見送りに来たシリルがいる。 「気を付けて帰れよ。ロシェ、またな」  ギクッと肩が揺れ、そして無視して早歩きで去っていく。 「ドニ、またな」 「またね。ちょっとロシェ、そんなに引っ張らないでよぉ」  なんて好ましいのだろうか。もっと深く彼を知りたい。 「ファブリス、楽しそうだ」 「楽しいさ。人という生き物は実に興味深い」 「そうか、よかった」  そういうシリルも表情が明るい。自分では決して心から笑顔にしてやれることはなかっただろうから、二人の存在は大きなものだ。

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