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指先の熱-6 side千尋

朝起きると、やけに広いベッドの上でひとりぼっちで寝かされていた。隣の布団を触っても体温が残っていないところからして、朝早く相手が出て行ったことが分かる。 残っているのは、ヘッドボードに置かれた水と3万円。 賢治さんは会社のお偉いさんらしく「朝早くここを出る」と言っていたから別にいいんだけどね。 「いたたたた……」 それにしたって何か置き手紙とか置いてくれたって良いじゃない…なんて、贅沢過ぎる欲を欲してしまう辺り往生際が悪い。 俺はただの金で買える玩具で、商品で、人間じゃ無い。 たまには誰かに甘えたくなる時もあるけれど、そんな事誰かに言ったってしょうがない話だ。 それに俺が望んでしている行為なのだから、そこにもっと報酬を望むのは間違っている。 大きく息を吐き出して起き上がろうとした瞬間、空気音とともに肛門からねっとりとした精液が出てきて思わず息を飲んだ。 「んっ、」 中に出された記憶は残っていないけれど、量からして意識がない時も何度か出されたのだろう。軽く指先を突っ込むだけで残りの物が溢れ出してくる。 中に出すのはいいんだけど、せめて出したら掻き出すくらいしてくれたら良いのになぁ。こんな朝までお腹に溜め込んでいたら、お腹壊しちゃうよ。 指先で粗方掻き出し終わると痛む体を動かして、ゆっくりと洗面所に向かう。息が切れて途中壁にもたれ掛かりながら歩くけれど大したことはない。 やっとの想いで洗面所まで辿り着き、鏡に顔を向けるとボロボロの顔が写し出された。 「いやぁ、これまた酷い顔だ」 何度か殴られた頬は赤黒く腫れ上がっているし、切れたであろう唇も生々しい。 意識が飛ぶ前に殴られた鼻は幸いにも折れてはないみたいだけど、鼻血の跡まで綺麗に残っているんだから笑えるね。 バスローブを脱いで全身を見てみても、昨日よりも増して酷い怪我だらけだ。お腹は痣まみれ、首だってしっかりと綺麗な手の跡が残っている。 指先はせっかく傷が塞がりかけていたのに、これじゃあ治るまで大分掛かりそうだ。 それだけじゃない、手首も擦れて痛いしもちろんお尻だって酷使されすぎて立ってる居るのが精一杯。 もちろん痛くない、と言ったら嘘になる。 だけど、痛くない。 だってこれは俺が求めたものだから。 俺の存在意義を今日も確認させてくれた痛みだから、これは嬉しいんだ。痛くない、大丈夫。 「さっ、帰ろ帰ろ」 顔を洗ってマスクを付けて、あらかたの身支度を整えると颯爽と部屋を出た。このぐらいの傷なら家に帰ってゆっくり手当てしたらなんとかなるだろうし。 まったく、ラブホってのは顔が見えないカウンターだから良いよね。 普通のホテルでこんな顔した人間がチェックアウトお願いしたらなんて言われるのやら。もしかしたら警察だって呼ばれてしまうかもしれない。 マフラーやコートで精一杯怪我を隠してみたけれど、歓楽街を出るといつもより涼しい冬の空気が肺に入ってきて少しだけ胸が痛くなる。 「さむいなぁ……」 街はクリスマス色に染まりつつあるのに、どうしてか俺だけが取り残されてしまったような気分になって怖くなる。 楽しそうに歩くカップルも家族も、どこか遠くに感じて得も言われぬ不安が心を蝕んで行く。 だから咄嗟にカバンの中に入れてあった薬をガリガリと噛み砕いて飲み干し、スマートフォンで電話を掛けた。 これで良い、これで良いんだ俺は。 「おはよ、終わったよ。お金持って行くから家行ってもいい?」 ヘラヘラとした声でそう言うと、いつもの恋人の声がした。
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