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奴隷と水浴び⑪

額同士を合わせられ、互いの息が掛かる距離だ。 「や、だ」 思わず体は後ろに逃げるが、背中に回されているシヴァの腕に阻止され、力強く抱かれてしまう。 密着したところから彼の温もりが伝わってくるのが、ひどく恐ろしくて堪らない。 「逃げるな。お前は何をそんなに恐れている? カーディチル」 耳元で囁かれた言葉に喉が引き攣り何も言えなくなる。 調べられることは想定内で、カーディチル――呪われた厄災の子――と呼ばれたこと自体に驚きなどありはしない。 寧ろ、メシアが呪われた子供だと知りながら近付き、その上、肉体に触れようとする男に対して、今まで抱いてきた恐怖とは違った種類の畏怖を感じた。 カーディチルのメシアを厭い、憎み、嫌悪する人間は掃いて捨てる程に見てきた。 近付けばメシアの存在によって命を奪われるとばかりに逃げ惑う人間に物を投げ付けられてきた。 殴られる時でさえ、直接メシアに触れぬようにと木の棒や石等の道具を使っていた。 メシアを恐れずに抱き締めてくれるのは、スノーレェィン家の人間と極僅か限られた者だけだった。 「わ、っ、わかっ、解っているなら、さわっ、触る、な。僕に、さわ、ん、ないで」 凍り付いて使い物にならない喉からどうにか捻り出した台詞は、青年に鼻で嗤われる。 メシアの背中を抱いたままの腕が伸ばされ、ほわり、と柔らかく膨らんだ髪に、シヴァの手が差し入れられた。 「呪いが感染る、とでも思っているのか?」 冷たい瞳がメシアを真っ直ぐに映す。 月明かりが照らす中で漆黒の色を宿す双眸に捕えられて胸が詰まる。 見透かされていると感じるのが苦しくて、ぎゅう、と目蓋を閉ざした。 髪を撫でていく手付きが丁寧で優しさすら感じられ、メシアは心がジクジクと痛むのを誤魔化す為に唇を強く噛み締める。 「メシア」 低い声に名を呼ばれた。 どくり、どくり、と鼓動を打つ音がヤケに大きく聞こえる。 怖い怖い怖い、と感情が昂り、自分でも制御出来なかった。 喉に詰まった激情が綴じた目尻から溢れてはメシアの頬を伝い落ちていく。 「……試してみればいい。感染ったりしないと証明出来たなら、怖いこともなくなるだろ?」 そう言って微かに笑うシヴァの手に後頭部を、ぐい、と引き寄せられ、彼との距離がなくなる。 何が起こったのか理解の追い付かない頭に、唇に触れる柔らかな感触だけがリアルに伝えられ、遅れて状況を把握し目を見開いた。 「っ、ンンッ……!? ん、っ、んぅ」 どうにか逃れようと身体を後ろに退けば、背中が岸辺に当たり、凭れ掛かるような姿勢になってしまう。
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