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『こっちを見るな。気味が悪い』
『怖いのよ……あなたの顔が』
『兄ちゃんってうちの子じゃないんだって』
ぽつり、ぽつりと、昔の情景が浮かんでは消えていく。これが走馬灯というやつだろうか──。
それにしても、目を覆いたくなるような光景ばかりで嫌になる。もっとましな記憶はないものだろうか。
『出ていけ。二度と顔を見せるな』
『ごめんなさい……あなたの顔を見てると変になりそうなの』
謝ってほしかったわけじゃない。それに、確かに疎まれはしたが、自分は誰のことも恨んでなどいない。
ただ、この顔がいけなかったのだ。確かに血の繋がった両親だったはずなのに、自分はどちらにも似ていなかった。そればかりか、周囲からは作り物みたいで怖いと言われるのが常だった。
もちろんそれは過去の話で、今はもう気に病んでなどいない。何しろ今は、そんな『作り物みたいで怖い』顔を武器に、商売をしているのだから。
客からは綺麗な顔だと言われるが、自分では分からない。散々否定され続けてきたせいか、どうしても自分の顔を好きにはなれない。
だが、そんなことも、今となってはどうでもいい。何もかも全て、どうでもいいのだ。
自分は何も求めない。誰のことも否定はしないが、受け入れる事もしない。ただ息をして、いつか死ぬまで生きるだけ。誰の心にも残らない、ただの影だ──。
そうやって生きてきた。とにかく、誰とも関わりたくなかったし、放っておいてほしかった。
『お前なんて……生まれて来なければよかったのに』
「……っ」
押し殺したような泣き声が聞こえて、目が覚めた。真っ暗で何も見えないが、背中には慣れたベッドの感触がある。他に人の気配はなく、泣いているのは自分だと認めざるを得なかった。
「……くそッ」
感情が乱れている。今見ていた夢のせいだ。強く髪を掻き毟ると、ブチブチと何本か抜けた音がした。
今さら誰に何を言われる筋合いもない。自分は全てを捨てて生きてきた。もう自分がどうなろうと、誰にも迷惑なんてかからないはずだ。
(……なんで死んだ後までこんな夢見なきゃならないんだよ……)
やっぱり地獄に落ちたんだろうか──。
黒い幕に覆われたような闇の中で、やがて自分の呼吸音さえも、聞こえているのか、頭の中で響いているのか、分からなくなっていく。
背中に感じるベッドとシーツの感触だけが、恐怖で今にも気が触れてしまいそうな自分を、辛うじて正気に繋ぎ止めている。
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