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白昼夢3

どれほどの時間そうしていたのかーー。 くすぐったさで目を開けると、野良猫が頬を舐めていた。 真っ白な毛並みがやけに眩しくて、俺は思わず目を細めた。 隣に横たわるあの人の亡骸は、やはり綺麗なままだった。 そんなあの人と並んで逝くはずだった俺の瞳は、何故か再びこの世の空を映していた。 「……ッ…なんでだよ……」 路地裏から仰いだ狭い空は晴れ渡り、暖かい陽射しが降り注いでいた。 あの人の安らかな表情は、まるで俺に生きろと言っているようだった。 俺は泣きながらその冷たい唇に口づけ、あの人に最後の別れを告げた。 その後の警察の調べで、あの人は暴力団の元幹部であった事が分かった。 それが殺された理由と直接結び付くかは結局調べがつかなかったが、俺にはどうしても無関係だとは思えなかった。 あの人が昼間外に出なかったのも、窓のない部屋に住んでいたのも、命を狙われていたのだと考えれば全て辻褄が合うからだ。 そうしてこの日から、あの人の真実を知る事だけが俺の生きる目的になった。 だが何の力もコネも持っていなかった俺には、あの人のいた組織に近付く事すらできなかった。 途方に暮れ、全てを諦めーー気づけばただの抜け殻のように、生きながらに死んでいる自分がいた。 あの雪の夜、俺の時間は止まってしまったのだ。 あの人の頬と一緒で、俺の手は今でも真っ赤に染まったままだ。 そして俺は、あの日以来誰とも触れ合う事ができなくなった。 否ーー本当は、触れ合う事ができないのだと自己暗示をかけてきたに過ぎないのだろう。 そうする事で、あの人の血に塗れたこの手を、 俺に残されたあの人の最後のかけらを、守ってきたつもりだった…ーー。
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