29 / 31

不従順(1)

(28)  店主の言葉に、ザッカリーが目を見開く。  そして、潤んだ瞳を揺らめかせると、アンドロイドは激しくかぶりを振った。 「私に従えないと? お前の(あるじ)の命令なのだぞ」」 「でも、そんな……マスター」 「それに、JJ」  穏やかに凪いだ、けれども肌に冷ややかな微笑で、店主が俺を振り返る。 「貴方も、そんなに『欲しい』のなら、あの子に丁寧にお願いしなくては。『マラ・ベブーズ』と」  …………あ?   「まら……なんだって?」 「『マラ・ベブーズ(我に口づけを与えよ)』。そう言って、この凛々しい青年にお願いしてごらん? ()()()()」  ――「お嬢さん」だとぉぉ?!!  連邦警察時代は、泣かせチビらせた凶悪犯も十人二十人は下らないっていう。  それなりに名うての刑事やってた男を捕まえてだな。何を言うに事欠いて。  ああ、チクッショウ……俺をなんだと。  っていうか。  乳首イジリたおされて、アンアンよがって。  オマケに……アナに、それもチンコの穴に突っ込まれてよ。    それでもって、「キスが欲しい」とか思うなんぞ。まったく。  そうだぜ、まるきり「お嬢さん」じゃねえかよ。  クソッ! クソッ!! クソッッ!!!  すると店主が、またしても俺のペニスに突き刺さった棒の端を摘んだ。  それは、ごく軽い指先の動きだったけれど、俺の隘路の内は、熱く鋭敏にえぐり取られてしまう。 「っああぁぁぁぁぁぁぁっ」  長い悲鳴が口をついた。  刺激の余韻が、大鐘を打ったように、俺の身体を震わせ続ける。 「あっ、ぱい、オッ、パイ……」  口が、勝手にエロいことを言い始めた。 「おっぱい、ジンジン…す…すず」  人差し指を口もとに運んで、店主が、クスリとひとつ、忌々しいほどに軽やかな笑いを洩らした。 「欲しいのですか? 鈴を。ティッツに?」  恥も外聞もなく、俺はただ、コクコクと頷いて店主を見上げる。 「良いでしょう、さあ、どうぞ。マドモワゼル」  チュと、金属球にくちづけると、店主は、それを俺の乳首に近づけた。  聴こえるか聴こえないかギリギリの。  ハニタカバチの羽音ほどの音とともに、ごくごく微細な振動が、みっともなく尖り切って膨れ上がった、俺の乳首に届く。  背筋を駆け抜ける快楽の電流に、また正気を焼き切られ、俺の口の端からはひと筋、涎が滴り落ちた。 「ああ、嘆かわしいことです。名うてのバウンティーハンターともあろう男が、なんと『はしたない』イキ顔でしょう、JJ?」  店主が吐き捨てる。 「まるで、場末のメス豚のようだ」  手垢のついたポルノ動画みたいに、ゲスの極みの罵り言葉。  なのに、俺は、店主の声に、ジンジンとペニスと痺れさせていた。 「きす、キ、ス…してぇ……」  ついに、俺は言っちまう。 「シ…テ、チュッて、くち、に」  取り澄まし切った形を崩したことなど、ついぞ見せたことのない、いつも厭味に気取った店主のくちびるが、一瞬、ふわりと緩んだ。 「ザッカリー」  ピシリと。  鞭のしなりのように、ひと言、店主が従僕を呼ぶ。 「この恥知らずで、毛むくじゃらの可愛い坊やに、お前がキスをあげなさい」

ともだちにシェアしよう!