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第115話

「ちょっと!なにしてんの!篠原!」 通話が終わった携帯をもぎ取った椿は、信じられないという顔で篠原を見る。 篠原は手持ち無沙汰になった手をそのままに、椿の顔を見つめた。 「帰らなきゃ……」 何も言わない篠原。 椿は問いただして怒鳴り散らしたい気分だったが、その携帯をポケットに突っ込むと立ち上がった。 その時間も惜しかった。 ――早く帰らなきゃ、智さんがくる。 立ち上がった瞬間、ふらりとよろける椿。 しかし踏ん張るとそのまま玄関に向かう。 佐々木が慌てて椿を追いかけると、困惑した顔をしながら椿を呼び止めた。 「蒼野、そんな状態じゃ」 「帰る、帰れます。」 「でもお前、また…気持ちはわかるけど同じ目に遭うぞ」 「それよりもあの人に会う方が嫌なんです!!」 椿は首を振ると、脱ぎ捨てられた靴に足を突っ込んだ。 鍵を開けて外に出ようとした時だった。 佐々木の隣を篠原が通り過ぎる。 佐々木が止めるよりも早く、篠原によって椿の体は後ろから羽交い締めにされてしまう。 思わず後ろに倒れ込んでしまってから、椿は体を振った。 「なっ!!」 「帰さないよ」 「ちょっと離してよ!!」 「離さない」 押さえつけて椿の動きを封じる篠原。 「おい、亮、やりすぎだぞ」 その様子を見て佐々木が顔を歪める。 「ヒロくんはだまってて、こうでもしなきゃダメなんだ」 「離してって!!嫌い!篠原なんか嫌い!!」 椿が暴れようと篠原の手は緩まない。 ギャンギャンと騒ぎ出す椿に、佐々木は篠原の肩に手を置いて低い声を出した。 「おい、亮、どうしようとこいつの自由だろ。俺らには関係ない。こんなことする必要性なんてない。それにお前責任取れんのかよ。離せ」 「ヒロくんはそうやっていつも逃げるからダメなんだよ。向き合ってよちゃんと!」 篠原が荒々しい声を出す。 苦々しい顔をして佐々木から顔を背けると、椿の動きを制御し続けた。 「おい、それとこれはちげーだろ」 「篠原!離して!!離せ!!」 「離さない!!」 「離してってば!!!!」 「おい、亮!!いい加減にしろ!!」 ――♪ 篠原がそう叫んだ時だった。 目の前のドアの前に人物が来たことを知らせるインターホンが部屋に鳴り響いた。 一瞬にして静まり返る3人。 椿は息を呑むとすぐさま、篠原から抜け出そうと抵抗を再開しながら振り返った。 「やだ、やだ……!佐々木さん俺を匿って!」 「ダメ!」 篠原が椿を咎めながら佐々木を睨みつける。 ゴンゴンッ!と強めにドアをノックする音が聞こえ、篠原が一歩前に出る。 「……おい……」 「痛い!痛いよ!」 椿は必死に進まないように踏ん張る。 しかし篠原に逃げられないように片腕で抱き込まれてしまう。 潰れてしまいそうなほど強く抱え込まれて、逃げることが出来ない椿。 「ヒロくん、見てて。俺はいつだって正しい。」 ――ガチャ と音を立ててドアが開く。 部屋の主がドアを開けるより早く開くドア。 ドアの向こうには智が居た。 智を見て椿は目に涙を溜めた。 「……椿くん?」 「さ、としさ……っ帰って、俺は大丈夫だから……っ」 後退りをしようとする椿だったが、篠原がそれを許さない。 椿は首を振って智を拒絶する。 しかし智は椿の腕を掴むと、自分の方に引っ張った。 「来て。」 「……いやだ!!智さんには関係ないでしょ!!俺は呼んでない!!やめて!!離してよ!!」 柱に手をかけてなんとか抵抗する椿。 篠原を見れば、篠原は見たことないほど真面目な顔で椿を見つめていた。 あ、と思うまもなく篠原は椿が柱に掛けていた手を剥がす。 引力に従って智の胸に収まってしまった椿は、智に抱き抱えられる。 「騒いでごめんね」 智はそう言い残すとその部屋を後に歩き出した。 最後に捉えた佐々木の顔は、悲痛に歪んだ顔をしていた。 パタンとドアがしまって、無情にもそのドアは小さくなっていく。 歩む智のその歩調は強い。 「智さん!離して!」 「下に車がある」 「車になんか乗らない!」 「椿くん、近所迷惑だよ。静かにして」 「その理由を作ってるのは誰!!誰か!!助けて!!!」 「…うるさいな。」 階段を椿を抱えたまま降りていく智。 喚き散らす椿の口を抑えた智は、そのまま自身の車の助手席に椿を乗せた。 がちゃがちゃとドアを開けようとする椿を制しながら、ドアのロックをかけた智はエンジンキーを回した。 「出して!智さんには関係ないでしょ!!」 「そんなことない」 「どうして!もう終わったじゃん!」 「終わってない。」 「何言って……さようならっていったでしょ!!!」 椿が外に向けていた目を智に向ける。 智は前を向いたまま見たことないほど端正な顔に表情を宿していなかった。 今までに見たことないほど怖い顔をしている。 それに気圧された椿は思わず口を噤んだ。 「終われるわけないだろ。僕の部屋に連れていくよ。君に拒否権は与えない」 「…………いか、ない……。」 小さく答えた椿。 その声はしんとした空間に響いて、確かに智の耳に届いたはずだった。 「聞こえないな」 しかし智はそう口に出すと、そのまま車を走らせ始める。 アクセルを踏む智。椿の体は慣性の法則で座席に押し付けられた。 「ちょっと……っ」 「捕まっていて。君を気遣う運転なんて出来る気がしない。僕は今とても腹が立ってるんだ」 聞いたことのない程に色のない智の声。 椿は唇を震わせた。 エンジンが唸り、車体が大きくカーブを激しく曲がる。 「っうわ!やだ!危ない!」 椿はシートに掴まると、強く目を瞑った。
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