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第2話

 雅之は今年で三十一歳になるシングルファーザーで、IT企業で真面目にコツコツ勤めて九年ほど。  三十路は過ぎたが、いまだに私服姿は二十代半ばほどに見られることもある。若々しい容姿は子供がいる、と言えば驚かれるほどだ。  物腰が柔らかく真面目で、穏やかそうな風貌が人に好印象を与える。  前妻と離婚をして二年が過ぎ、そろそろ新しい恋愛を始めても良い頃合いではあるが、基本性格がのんびりしていて、そういった欲求が薄かった。 「こんばんは」  ガラガラと硝子の引き戸を開けて、保育園の玄関に足を踏み入れると、奥の方では子供たちの笑い声などが聞こえていた。  そんな賑やかな中でも雅之の声が届いたのか、保育士の一人が奥からひょっこりと顔を出す。その顔を見て、雅之はにこやかな笑みを浮かべた。 「高遠さんこんばんは」 「こんばんは」  とことん鈍くてのんびりマイペースな雅之だが、それでも気づいてしまう好意が、この保育園にはあった。好意を寄せてくれる相手は、まだ若く二十歳になったばかり。  毎朝毎晩、変わらず気分が良くなるような、ハキハキとした元気の良さと笑顔で出迎えてくれる。  雅之自身もその爽やかさや笑顔には、仕事の疲れなどを忘れさせてくれる程の癒やしを感じていた。  ただ一つ問題があるとすれば、『彼』が男性であるという点だろうか。  そんな彼――響木淳は、今日もまた実にいい笑顔で雅之を出迎えた。  のんびりとした足取りで近づいてくる彼は、百八十センチある雅之の身長より少し低い程度で、今時の子のような華奢な印象はあまりない、健康的な体躯だ。 「お疲れ様でした。今日も希くんいい子でしたよ」  目を細めて笑うその顔は、本当に人好きする印象で、柔らかい声音は相手にほっとした安心感を与える。  明るい髪色とその笑顔で「太陽みたいな子」と、母親たちからの評判はここの保育士の中では特に高い。  そんな笑顔につられ雅之が微笑めば――希くん、お父さんだよと、淳は背後を振り返り声を上げた。すると奥の部屋から小さな足音を立てながら、雅之の愛息が駆けて来る。

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