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一歩前ヘススム 第6話

 思いがけず玄関先でたっぷりと彼を堪能してしまい、そのあと慌てて食料と飲み物を冷蔵庫へしまった。これを出すのは、きっと夜が更けてからになりそうだと思いながら。 「お湯が溜まるまでに身体を洗っちゃおう」 「あ、はい。……んっ」  雅之が浴室を覗くと、淳が浴槽にお湯が張られていく様子をぼんやりと眺めていた。一糸まとわぬ姿で縁に腰かけている彼に、そっと近づいて頬にキスをする。  そうするといまだ熱の灯っている彼は、ひどく物欲しそうな目をしてくる。  それに応えて唇に口づけたら、両腕を首元に絡めてきた。引き寄せられるままに彼を抱きしめて、髪を梳いて、手を滑らせ身体のラインを辿る。 「ちょっと待ってて、僕も脱いでくるから」 「あっ、ごめんなさい」 「いいよ」  自分だけ裸であることに気づいたのか、ぽっと頬が赤く染まる。照れたように俯く、彼のつむじにキスをして、雅之は洗面所に戻った。  そして着ているものを脱いで、先に脱ぎ置かれた淳の衣服と一緒に洗濯機へ投入する。  後ろを振り返ると、まだ彼はぼんやりとしていた。艶っぽいその横顔に思わず見惚れてしまう。  けれどしばしそこで立ち尽くしてから、あのままでは風邪を引かせてしまうと、急いで浴室に足を踏み入れた。 「淳くんの髪は柔らかいよね。さらさらで洗ってる感触も、僕や希と全然違う」 「希くんの髪はこしがありますよね。雅之さんのもそんな感じ?」 「うん、そう」 「今度、俺にも洗わせてください」 「いいよ」  俯く淳の髪をたっぷりと泡立てて、温かいお湯でさっぱりと流す。雅之は彼が湯船に気を取られているあいだに、済ませてしまっていた。  どうせならしてもらえば良かったと、少しばかり後悔する。  二人で風呂に入る機会はそれほど多くない。いつもはどちらかが希と一緒に入っていて、二人きりの時も交代で入ることがほとんどだった。  たまにこうして明るい光の中で、まじまじと彼の身体を見ることができる、それは雅之にとってご褒美のようなものだ。  思わずじっくりとしなやかな身体を見つめた。  元より痩せた印象はなかったけれど、保育士はわりと体力勝負なので、適度に筋肉がついている。仕事で日焼けすることもあるだろうに、シミ一つない綺麗な身体だ。 「あんまり、じっと見られると恥ずかしいです」 「ごめん、すごく綺麗だなって思って」 「そんなの、言われたことない」  ふいに立ち上がった淳は、視線に耐えきれなくなったのか、湯船の中へ逃げていく。それを追いかけて湯に浸かれば、抱きしめた身体は小さく縮こまった。  緊張を解くように優しく後ろからキスをして、膝を抱える手を握りしめる。するとそろりと視線が持ち上がり、淳はこちらを振り返る。 「雅之さんから見た、俺って、どんな感じ?」 「え? 僕から見た淳くん? そうだなぁ。ふわふわのわんこみたいで、お日様みたいな笑顔が可愛くて、一緒にいると優しい空気が流れる感じがして、すごく癒やされるよね。あ、もちろん、してる時のえっちな淳くんもたまらなく可愛いけどね」 「そ、それっ、恥ずかしいから」 「だって聞いたの淳くんだよ? 僕はどっちの淳くんも可愛くて好き」  ジタバタと、逃げ出そうとする身体をきつく抱きしめたら、しばらく抵抗したのち、諦めたのか大人しくなった。けれど顔はすっかり俯いてしまって、表情が見えなくなる。  覗き込むと顔をそらされてしまい、また意地悪が過ぎただろうかと心配になった。 「ごめんね」 「えっ? こ、これは、嫌だったわけじゃなくて、恥ずかしいんです。まだ慣れなくて」 「慣れない? なにに?」 「なんていうか、こう、受け手に回る感覚っていうか」 「あれ? いままでって」  淳の言葉に思わず雅之は首をひねる。けれどどんどんと淳の首筋が赤くなっていくのがわかって、深く追及するのをやめた。その代わりにじっくりと考える。  そういえば初めて彼を抱いた時、するのが初めてだと言っていなかっただろうか。  同性同士は男女間と違い、色々あるので、これまではそこまで至っていなかっただけ、と思っていたのだが。  そもそも抱かれる側ではなかった、ということか。  確かに見た目でいけば、彼ほど背が高いと、自分より背の高い相手は少ないかもしれない。  体格だって彼より小さい子のほうが多いだろう。そうすると自然と役割が見えてくる。 「もしかして、無理させてた?」 「へっ? あっ、ちがっ」  ふいに心配になってぱっと手を離したら、驚きをあらわにした淳が勢いよく振り返る。慌てた様子でこちらを向いた彼は、距離感が掴めなかったのか、数センチ先で視線が合った。  それに驚いて今度は飛び退こうとするので、とっさに雅之は手を伸ばして肩を掴んだ。 「本当に無理させてない?」 「し、してないです! お、俺、元々……性癖はそっちで、これまでが無理してたっていうか、いまが嬉しい、んです。こういう風に優しく扱って、もらえるのが、初めてで」  言葉を詰まらせながらぎゅっと目を閉じて、必死な様子で嬉しくて――そう何度も繰り返す、淳はひどくいじらしい。  そっと両手を頬に添えれば、震えたまぶたが持ち上がった。  じっと潤んだ瞳で雅之を見つめて、淳は距離をさらに詰めるように近づいてくる。その様子を黙ってみていると、恐る恐ると言った様子で口先に口づけてきた。 「俺、いまが幸せです」 「僕も、淳くんがいてくれて幸せだよ」 「あのっ、ま、雅之さん、は、早く、……したいです」 「んふふ、ほんと淳くんはおねだり上手だね。こんな時にそんなこと言われたら、しないわけにはいかないよね」  首筋に滑らせた手をゆっくりと下へと辿らせて、ぷっくりと立ち上がった胸の尖りを弾く。  それだけで小さな声が漏れて、きゅっと指先で摘まめば、さらに甘い声がこぼれる。 「そ、そこじゃなくて、……な、中に、中に欲しい」 「淳くん、せっかちだね」 「だっ、って、昨日からずっと我慢してて」 「立てる? ちょっと待ってて」  しがみついてくる手を解いて、雅之は風呂場の棚に手を伸ばす。そしてひげ剃り用のジェルの中身を確かめて振り向くと、期待を含ませた目で見つめ返された。  性欲に正直なところがまた可愛い。  そういえばセックスをするのを、嫌がったことが一度もないなと、それに気づいてニヤリと笑みを浮かべてしまった。 「一週間ぶりだよね。いつも一人の時はどうしてるの?」 「ぁっ、あっ……んっ、雅之さんのこと、考えて、してる」 「してるところ、見てみたいな」 「えっ」 「でもいまは、ちょっと僕も余裕がないから、また今度、ね」 「あ、あぁっん」  たっぷりとジェルを塗りたくった場所を、指先で丹念に解しながら、少しずつ含ませる指を増やすと、可愛らしい喘ぎ声とともに腰が揺れた。  後ろを向いていて表情は見えないけれど、随分と気持ち良さそうにしている。  浴室の壁にしがみつく指先は、白くなるほど力がこもっていた。より一層深く中をまさぐれば、さらに嬌声が上がる。 「あっ、ぁんっ、いい、気持ちいいっ、雅之、さん……もっと」 「指だけでいいの?」 「やだっ、欲しいっ、雅之さんのっ」 「可愛い」  ずるりと指を抜くと、物足りなそうにそこがひくりと反応する。指先で撫でるだけで、飲み込むような動きを見せた。性格そのままに素直な身体に雅之の喉が鳴る。  すっかり立ち上がっていた自分の熱を押し当てると、そこは押し広がり切っ先を飲み込んでいく。 「あっ、あっ、中、もっと、もっとして」  たまらないおねだりに一気に根元まで押し込んだら、それだけで淳は欲を吐き出した。それでもなお食いつくみたいに中がうねり、雅之は彼の腰を引き寄せる。  さらに何度も穿てば、その快感がたまらないのか、ひっきりなしに甘い声を上げて淳は髪を振り乱した。 「ぁあっ、んっ……とまん、ない。雅之さんっ」 「淳くん、イキっぱなしだね。どこもかしこも気持ちいいでしょ」  するりと手を忍ばせて、胸の尖りを両方いっぺんに摘まめば、だらだらと蜜をこぼしながら、淳は何度も絶頂を繰り返す。耳に響く彼の声に快感を煽られた。 「んっんっ、またイ、クっ、ぁっ」  顔が見たくなって振り返らせると、惚けた顔で見上げてくる。涙とよだれで汚れた顔まで可愛く見えてしまい、半開きの口を塞いで再び熱を激しく突き入れた。  ビクンビクンと跳ねる身体は、次第に力が抜けて沈み込み始める。  浴槽の縁につかまりなんとかこらえているが、立っていられなくなるのは時間の問題だ。 「淳くん、ベッドに行こう。そろそろこの体勢、辛いでしょ」 「あっ、やだ、……抜かないで、まだ、もっとして」 「……もう、ほんと可愛いなぁ。じゃあ、あと一回イったらね」  ぶんぶんと子供みたいに首を振る淳は、頑なに動こうとしなかった。これは一度完全にイかせないと、熱は収まらない。背中にキスを降らせてから、雅之は淳の腰をしっかりと掴んだ。 「あっ、……あっ、まさ、ゆき……さんっ! んぅっ、ぁっ、はげ、しいっ、あ、駄目、イっちゃう」 「イっていいよ」  耳たぶに齧り付いて、奥の奥まで熱を押し込んだ。すると淳はいままでにないくらいに身体を震わせて、断続的に声を漏らしてよだれを滴らせる。  ぐりぐりと中をこすれば、背中をしならせて浴室の壁を汚した。

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